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9.復古
辺りは雷がなっているが、雨が降る様子はなく月明かりに照らされていた。
俺は森の中をただ当てもなく彷徨っていた。足さえ止めなければ、いずれ何処かにたどり着くと信じて。この世界に来た時点で、俺は悪の限りを尽くしていた昔に戻っていた。きっと元々がこういう性格なのだろうか。いくら考え方が変わろうが、アンリたちと出会おうが本質は同じで……もう元の世界に戻るまで、甘い生き方はしないと剣で手の甲に傷を刻む。傷から僅かに滲み出てくる血を見つめて誓った。
手は血にまみれており、身体はボロボロ、そんな俺を闇に潜む獣たちは見逃す訳には行かなかったのだろう。威圧感のせいなのか襲ってくる事はないが、さっきから後ろを囲むようにして目のギラついた光が追ってくる。
俺が倒れるのを待っているのだろうか。獣たちの思うようにはなりたく無かった。
足を止めて様子を伺ってみる。オオカミの様だ。倒れ込むと見せかけ、少し興味を示して群れから離れたオオカミを真っ二つに斬る。真剣はほとんど使ったことが無いがこの剣が良いのは十分過ぎるほどに伝わってくる。普通、背骨などの大きな骨は引っかかって切れないのだ。骨は意外と固く、ノコギリやナタを使ってようやく切断できるものなのだ。
このまま戦闘開始だと思われたが、オオカミ達は一目散に逃げ出した。
それを見るや否や無性で追いかけた。喰らう訳でもないのに追って追って追いまくった。そこにあるのは明確な殺意だった。一匹……二匹、三、四匹。オオカミたちが途中で足を止めた。
すると突然、森が叫んだかのような大きな音と共に照明のような明るさを感じた。雷だ。ローブを
、粉々になった。
ローブは俺と目が合って大きな声で言った。
「おーいお前、私は天才なんだが、相性が悪くてだな。見たところ強そうではないか。礼はいくらでもしてやるから助けてくれ」
嫌に態度が上からで気に入らない。何様のつもりなのだろうか。俺は嫌だねと言って剣を構える。
「な……下手に出てみればいい気になりおって、私は魔王軍幹部、ネロ様だぞ! お前も殺される事になるんだぞ。早くしろ」
「なんだテメェ。俺からしたら全員敵だ」
俺は言い返すとネロと言われる奴に殺意を向け、懐に飛び込み首を斬った。
どんなものにも負けるはずがないと思った。今の俺を突き動かすのは一度失っていた殺意。強力な武器もある。動きを止められるであろうスキルもある。魔法のことはよく分からないが喧嘩は喧嘩だ。
俺は一呼吸おいて空に浮いている雷使いを睨みつけた。
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