彼女が純粋に美しいと表現されるべき存在なのであろう。

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始まりはいつだって何かが終わること。 それは私たち人間にとって一番知り得ている知識であろう。生が誕生した瞬間から死への宣告が待っている。しかし、仏教の考えでは輪廻転生という言葉があるよう終わりは始まりを象徴するという見方もできる。''終わりは怖いことではないのだ'' 人間は変化することに非常に脆い。先程も述べたが、「終わり」という言葉に恐怖を感じる。だからこそ、儚さが生まれるのではないだろうか。あの少しの憧れと羨望から派生する独特の美しさには私も何度も魅了された。一つの呪いなのではないかと思うほど、私の心を苦しみで満たし、同時にそれが風のごとく立ち去った際には行かないでと願ってしまう。 儚さは彼女にとって唯一の武器だった。私が生きてきた中であれほど中心がガラスのように透明で、かつ繊細に構成されている人間に出会ったことはなかった。「ガラス」といっても逆に透明であるからこそ脆かった。どこかで聞いたことがある、異性に対して自分とは違う匂いの人物に惹かれるらしい。その話を信じるのならば、彼女は私の濁った色の心とは違っていたために、私には持ち合わせていない何かを持っていたのかもしれない。これを「恋」と呼ぶのかどうかは分からない。それぞれの認識によって変わってくるだろう。私にとってそれは「思い出」だった。現実とは異なる世界に迷い込んだかのように彼女の世界に彷徨っていた。その世界の影響で私の心に純情という感情が目を覚ましていた。ますます、世界に入り浸っていると突然幻想は崩落した。 彼女の人生に余命宣告が告げられたのだ。 私は咄嗟に現実から逃れようとしたが、周囲の人々が私の体を取り囲み逃がしてはくれなかった。瓦解して行くその中で、何を模索すればよいのか分からず、いつの間にか時が過ぎていた。 余命の日がやって来たときには私は虚無に包まれていた。今までの視線が突然切り替えられ、現実へと向けられた。あぁ、私の身体も共に滅びてはくれないだろうか。もし彼女の身体が終わりを告げる際、私も終わりというものを共有出来たとするならばどれほど幸福で満たされることなのだろうか。しかし、私の淡い期待は叶わなかった。今でも、憧れという思い出として記憶の中に沈殿している。彼女は笑顔で、「やり残したことはない。」と旅立った。 夏の暑さが終わり、涼しさが始まる今日に。
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