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番外編:浮気発覚?大騒動の巻 1
勘太さんとそう言う仲になって早、三か月。相変わらず僕はわざわざ勘太さんの勤める無料案内所の前を通って帰るようにしていた。勘太さんは一週間に二.三回は僕の部屋に来るんだから、わざわざ職場まで見に行かなくてもいいのに、ついチラッと覗いてしまう。
覗いた先に、黒服の勘太さんを見つけてはドキドキしてしまう。たまに僕の視線に気づいた時は、わざわざ店を出て近寄って来てくれるんだ。
『今日も一日お疲れ様』
そう言って、頭を撫でてくれる。たまに、道ゆく人に見られてて慌てるんだけど、幸せだ。
今日も、無料案内所を覗いてみる。
だけどいつもなら店内で待機しているはず勘太さんがいない。たしか出勤だったはずなんだけどな。奥の倉庫にいるのかなあ。
店にいるのはもう一人の金髪の従業員、小林さん。店を覗き込んだ僕をめざとく見つけ、小林さんは声をかけてきた。
「おーい」
わざわざ僕の方に寄ってくるとニコニコしながら暑いねぇ、と挨拶してくる。
以前、仕事中に勘太さんとホテルに行ったことがあって、その時に仕方ねぇなと、店番をしてくれたのが金髪の彼。最近ではもう顔も名前も覚えられていた。
「岡部くん、いまショウは買い出しに行ってるよ。さっきまでいたんだけどねぇ」
小林さんは手に顎を当てながらそう言う。
「あ、そうなんですか」
「しかしラブラブだねぇ。羨ましい」
ニヤニヤとこちらを見る。小林さんは僕と勘太さん(ショウは職場での名前だ)が付き合い始めたのを知っている。僕は真っ赤になりながら、会釈してその場を離れた。
まだまだ揶揄われると恥ずかしくてたまらない。
僕は少しだけ早歩きしていたら、歓楽街を行き来する中の人混みで勘太さんがいることに気づいた。勘太さんに駆け寄ろうとしたが、ふと隣の男性と何か話をしていることに気づいた。
勘太さんより少し背の低い、黒髪の細身の男性。お客さんなのかな?
僕は駆け寄るのをやめて、二人を避けるように歩いた。
それからもその男性と勘太さんが店の中で話をしているのを、数回目撃してしまった。何故してしまった、なのかと言うと二人の距離が近くて、たまに談笑していたから。
お客さんとそんなに楽しく話する必要ある?僕は何だか面白くなくて、目撃した夜はモヤモヤしてなかなか眠れなかった。
僕と同じくらいの小柄な男性。僕よりもよく喋っている彼は、なんだか勘太さんをじっと見つめているように見える。勘太さんの好みの小動物ちっくな彼。もしかしたら、僕といるより楽しいのかな?
「水樹?」
名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。コーヒーを持ったまま勘太さんが僕の顔を覗き込んでいた。
「あ……ごめん、考え事してた」
「大丈夫?最近仕事忙しい?無理すんなよ」
コーヒーをテーブルに置き、勘太さんはフワリと僕を抱きしめてくれた。
こんなに優しく心配してくれているというのに、それでも僕の心の墨汁はじわじわと広がっていった。勘太さんも何かを感じ取ったのか、少しだけ僕らはギクシャクし始めていた。
そして、大変なことが起きてしまった。
勘太さんが夜、来る日。僕はすっかり忘れてしまい、よりにもよって職場の奴らと飲みに行ってしまった。
少しフワフワする足で玄関まで辿り着いた時、勘太さんの姿を見つけて、一気に酔いが覚めた。
勘太さんは僕に気がついてツカツカと近寄ってきて、俺を睨む。
「酒くさ。何してんの」
「…ごめん」
「俺、今晩行くっていってたよね。連絡つかないし、心配になって待ってたのにこのザマ」
どんどん血の気がひいていく。こんなに厳しい言葉を投げられたのは初めてだ。
「心配して損した。今日は帰るわ」
もう一度謝ろうとしたのに、声が出ない。勘太さんはそのまま振り向かずに帰ってしまった。
僕は追いかけることすら出来ずに、その場に立ちすくんでいた。
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