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定時のチャイムが鳴り、何とか三十分は粘ってみたものの上司の目がやはり怖くて、ある程度のめどが立った段階で、僕は帰ることにした。パソコンをシャットダウンして、どこでご飯を食べようかと考えたときに、たまには帰り道を変えてみようかなとふと思いついた。
会社からマンションまでは徒歩で二十分くらい。しんどいときはバスを使うが、大抵大通り沿いに徒歩で帰っている。そして大通りから一本はずれたところに歓楽街があるのだ。以前、歓迎会をしてもらったときに通ったきりで、その道を今まで使わなかったのだが、方角的にはマンションまで続いているはずだ。
僕が下戸なこともあり、歓楽街を突き抜けて帰るというのは選択肢になかったのだけど、たまには気分転換に歩いてみようか。
十八時過ぎと飲む時間にしては早いものの、秋を過ぎて随分と暗くなってきたこともあり、繁華街の電光は大げさなくらい煌びやかに灯っていた。いろんな店があるけれど僕はついつい無難なチェーン店の定食屋で早めの夕食をとった。
お酒が飲めれば、居酒屋に行けば良いんだろうけど…。もし飲めたとしても僕のこの性格じゃ『ひとり酒』なんてできない。ちょっと前にテレビで女の子が『ひとり酒』を楽しんでいるのを見たけど、本当に尊敬する。
チキン南蛮定食を平らげて、時計を見てみるとまだ十九時半だ。昨日のこの時間はまだデスクでにらめっこしていた。これから帰ったとしても二十時過ぎには着いてしまう。
店を出ると、街にはさっきより人が多くいて、活気に沸いている。若い女性や、大学生っぽい団体。赤ら顔をしているスーツ姿のサラリーマン。僕も飲みに来ている一人のように見えるのだろうか。みんな楽しそうで良いなあ、と思いながら僕は左右に広がるいろんな店を見ながらマンションの方へと向かう。
歩いているとふと、目に入った看板があった。『無料案内所』と大きく書いてある。
『無料案内所』?何をするところなんだろうか。
いつもなら気になっても素通りする僕だけど、時間が余っていたし、ちょっと見てみようかなあ、と好奇心が上回って目の前にあった『無料案内所』の店を覗いた。
ドアは開きっぱなしになっていて、一人だけ背を向けている背の高い男性がいた。真っ黒な黒のベストにグレーの髪。横顔が見えたとき、僕は思わず口を手で塞いでしまった。
至近距離で見たわけではないのに、その顔がめちゃくちゃイケメン!意志が強うそうな眉毛に、くっきりした顔立ち。あああなんてかっこいいんだろう!ずばり、僕の好みだ!
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