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プロローグ
ギ、ギ、ギィィィィィ、ギ、ギ……
木材のきしむ音が響く。
天井近くの窓には、白々と浮かぶ月。
その前を群雲の黒い影が固まってはちぎれ、固まってはちぎれ、横切っていく。月明かりが差し込んでは、すぐに陰り、まだらな白い光を投げ込んでは、また陰っていく。
風が走る夜。
閃く白い光に、一瞬、浮かび上がる石造りの礼拝堂の内部。
小さいながらも、壁には十字架、その前には祭壇がしつらえてある。
また闇。
次に光が照らしたのは、ひとつの人間の影。
影からはまっすぐ縄がのび、その先は本来ならシャンデリアが下がっているはずの天井の輪へ消えている。
また闇。
ギ、ギ、ギィィィィィ、ギ、ギ……
木材のきしむ音が響く。
「ゆ、許してくれ」
影が不安定に揺れて、か細い声が絞りだされる。
「裏切るつもりはなかったんだ……」
「どんなに私があ、あなた方のために働いてきたか……」
「お、思い出してくれ……」
ギ、ギ、ギィィィィィ、ギ、ギ……
不安定に揺れる影の足下には、斜めに不安定に積まれた2脚の木の椅子。
ようようつま先で、椅子のバランスを支える2本の足。
ギ、ギ、ギィィィィィ、ギ、ギ……
首は縄に吊られて、身体の揺れに従って不自然にのけぞる。
両手が縄を掻けば、また身体が揺れて、椅子が大きくかしぐ。
ギ、ギ、ギィィィィィ、ガタ、ガッ、ギ……
「頼む。いや、お願いします……」
「金は返す、すべて。だから……」
「お前ひとりが考えたことではないだろう。お前にいらぬ知恵をつけたのは誰だ」
小さな礼拝堂の、どことも知れぬ陰から声が生まれる。
「私ひとりが考えたことだ。私ひとりが……」
ギ、ギ、ギ、ガ、ガッ、ガッ……
「もう少し金、金が欲しかっただけ、だ。た、助けて……」
「まあ、いいさ。お前がそこまでかばう相手、ということなんだろう」
「違う! 私が!!」
「だから、お前は馬鹿なんだ。語らぬことですべてを語っている。もういい、逝けよ」
「待て! 待ってくれ! シャデ……」
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