高校2年生・とある日の放課後

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高校2年生・とある日の放課後

ああいけない。もうこんな時間だ。学級日誌って、どうしてこうも時間がかかってしまうのだろう。今日はほとんど自主練の時間はとれない。少しだけむっとしつつ、急いで荷物をまとめる。 「あっ」 ファイルを掴んだ向きが悪く、中身が落ちていく。慌てているといつもこうだ。 ふわり、と大きな風が吹き込んでくる。風の音に耳が塞がれた。 楽譜がバラバラに舞いあがる。 辺りの音を吹き消したはずの風が、一つの音を運んできた。 風に逆らい、ゆっくりと音のした方へと顔を上げる。 音源は、平行に2つの棟が並んでいる校舎の向かい側の教室にあるようだった。窓を開けて、その窓枠に器用に座って演奏をしているようだ。後姿に心当たりがあった。いつも教室に楽器を持ってきているひと。放課後である今は楽器は無くなっているけれど、いつも部活中に自分の席にかばんを置きっぱなしにしているひと。 低い音なのに遠くまでよく通るなあ、とぼうっと考える。うねる様に流れてくるそれは、主旋律ではなかった。彼が弾いていたのはベースだからだ。ベースのフレーズだけで、こんなにも心動かされるものか。 どく、どく、どく 心臓の音を皮切りに、辺りに音が戻ってくる。 「ああ、もうこんな時間!」 順番も確認せず、慌てて楽譜を掻き集めると、鞄と日誌を引っ掴んで教室を出た。
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