避難訓練

2/12
前へ
/596ページ
次へ
***  環境のための節電をモットーにエアコンが切られた職員室は、九月下旬、まだ結構暑い。さっきまで教頭先生が細かく今日の避難訓練についての説明をしていたけれど、半分くらいしか頭に入らなかった。 暑い。 「水城先生、二組は何ですか?」 「ええっと、算数です、うちは。教室からの避難です」 一番、シンプル。 去年もやったパターンで、教室からの避難経路もそれほど変わらない。 ちょっとほっとしている。 去年から担当しているクラス、二年二組には、32人の子供がいる。 昨日から胃腸炎で今日も欠席が決まっている子が一人。今、松葉づえだとか、車いすといった特殊なケースもない。31人の避難が無事にできればいいのだから、多少の騒がしさだけ気を付ければ、何とかなるだろう。 「前島先生は、なんですか?」 話しかけてきた隣の席の先輩の同僚に聞き返す。 「うち、理科室なんだよなぁ……」 前島先生は六年生だから、理科室を使う。 「あ、いやですね。実験ですか?」 「んー、実験じゃないんで、教室に変更しようかなぁ」 理科室は、教室のように、一人一人が足元に避難できる個別の学習机ではないから、面倒だ。 でも、簡単な場所から訓練するのは意味がない気がするけど……。 「変更したら、避難がその時間だって、バレません?」 一応、今回は、生徒はいつ避難訓練になるのか知らないという設定だ。 「バレるね。ダメか」 「駄目だよ、教室変更するの。前島先生、ちゃんと時間割どおりでお願いしますよ」 6年、学年主任の芦田先生に聞かれて、怒られている。 「ああ、すみません。しませんよ。冗談です」 「消防局の人、来るんだから、ちゃんとやってくれないと」 そうだ。 地震体験車と、消防車を持ってきてくれるらしい。 去年は来なかった。 大体同じ時期に避難訓練を行う市内の小学校や中学校を順番で回るのだろう。 校庭への避難後、全校で消防職員から指導がある。 避難後、一時間分は、それに費やされる予定だ。 うちのクラスの子はまだ小さいから、多分、きっとみんな喜んで、かなり盛り上がる。 来週、二年生は今日の思い出をもとに、図工で、消防車の絵をかくことになっている。 写真を撮ることを忘れないようにしないといけない。
/596ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2309人が本棚に入れています
本棚に追加