※谷の底※

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※谷の底※

花火大会の途中で急に呼び出しがかかったのは、どうしようもない。 元々、週休じゃなくって、非番日だから、拓を誘って、三人で花火大会に行った。 急に呼び出しされても、柚が一人にならないように。 それでも、一緒に柚が楽しみにしていた花火が見れなかったのは、ちょっと残念だった。 浴衣姿の柚、かわいかった。 女の子の浴衣、いいよな。 なんか、照れるとことかも、含めて、良い。 一緒に帰って、どうこうできなかったのが、残念極まりない。 そんなことを考えながら、本署へ急いだ。 15分もせず、本署について、集まった非番が出動したのは、市内の端っこの山沿いの道路での事故だった。 二台、崖から落ちたらしい。 夜中の、足場の悪い山林からのレスキュー。 複数人負傷者がいるという事で、現場へ直行した。 現場に向かう途中で、救急車とすれ違った。 現場には先に救助工作車と、もう一台の救急車が停まっていて、作業していた。警察も来てる。 地元の60代男性の軽トラックと、十代の子らが乗った乗用車の追突だった。 さっきの救急車で運ばれたのは、ガードレールから半分乗り出している軽トラの運転手だったらしい。 もう一台、若い子らの乗った乗用車は、谷の下に落ちてた。 現場の空気がかなり重く厳しい。 重たい興奮状態。 さっきまで、友達と恋人と浮かれて祭りにいたのに、一気に、気持ちは夜の暗い山の底へ落ちていった。 仕事だから。 先輩に指示されるままに、緊迫状態のアドレナリンに押されたまま作業して、全部の処理が終わるまで、朝方までかかった。 2名死亡、2名重症、1名軽傷の事故だった。
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