傷を舐める

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***  二学期が始まると、すぐに夏休みの水泳練習の成果をみせる、水泳大会があった。 スイミングに通っている子はもちろん、三年生ともなると、みんな結構泳げるようになってきている。スタンプカードを真っ赤にしてきた子は、夏休みの間にやっぱりちゃんと上達していた。 「お疲れ様でした」 フロートを集めて、プール脇の倉庫に片付けながら、ホースで水を撒いて片付けている教頭先生に挨拶した。 「はい。お疲れ様」 更衣室でラッシュガードを脱いで、着替えて、プールサイドを離れようとして、端にまだ一つ、フロートが飛び込み台の側に見えて、取りにいった。 暑い午後の日差しで、プールの水面がきらめく。 夏が終わっていく。 更衣室から教室へ移動し始める子供の声を聴きながら、自分の子供のころを思った。 運動神経なんか良くもないけど、私は泳ぐのは、平均的だった。 スイミングに行っていた子は、すごく速い子いたなぁ。 なにちゃんだっけ? 思い出せない。 速く泳げる子は、水泳大会ではスターだったな。 龍之介は水泳が上手い。 真面目に体育なんかやってなかったのに、高校までライフセーバーの資格を取ったり、スイミングをやっていて学外で泳いでいたから、びっくりするくらいきれいに泳いだ。 付き合ってしばらくするまで、このことは聞かなかった。 ただ、スポーツはできるのに、サッカー部にちゃんと出て無くって、部活に興味がないんだと思ってた。だけど、龍は放課後、学校に来ない拓君と遊んだりしながら、スイミングに行ったり、講習代のために短期バイトしたり、自分の目標をひっそり持って生きてた。それを口に出すのを極端に避けていたけど。 拓君は、逆に、泳げない。 友だちがおぼれてから、泳げなくなったらしい。 そのせいで、高校時代、体育教師ともめてから、不登校になっていた。 忘れられていたフロートを拾い上げて、熱いプールサイドを歩きながら、二人のことをちょっと思った。
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