傷を舐める

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「うん」 「柚、ちょっと、こっち、来い」 言うなり、ぐっと私を引き寄せて、膝の上に抱きかかえた。 「柚、あの時、俺が他の子連れて帰って来たって思った?」 「うん」 「あの時、最悪だったって、誰かに言った?柚、人に喋ってないんじゃねえ?」 「言ってない」 ショック過ぎて、誰にも言えなかった。 自分のプライドみたいなのもあって、言えなかった。 「キツい事があった時は、喋った方が良いんだってよ。メンタルの研修で言われた。一人で抱えてると傷になる。こないだ、山の事故、俺、柚に話したよな? 柚もあの時の事、話した方がいいんだと思う」 「今更だけど?」 「今更だけど。俺は聞きたいし」 ぎゅっと膝の上で、私を抱き直す。 この人は強い。 「えっとね」 「ん」 「あの頃さ、あんまりしょっちゅう会えなかったし、新しい友達も、勉強も、バイトとかもあって、ね?」 「うん」 「きっと、何もなくても、喧嘩したり、すれ違ったり、駄目になるんじゃないかってずっと不安だった」 龍之介はうん、って静かに相槌を打ちながら聞いている。
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