プロローグ ありがとう

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プロローグ ありがとう

満月が天高く昇り、満点の星空が輝く星空の中、高校の校舎の屋上は、月明りに照らされた舞台のようだった。 自分の身体は宙に浮いているような感覚で、浮遊するように、または屋上から背中から飛び降りたように、空を見上げる形で宙に浮いていた。 やけに世界がゆっくりで、空が綺麗だ……なんて思っていた。 見上げた屋上の縁には、長い髪を靡かせ、制服を着た女子生徒が立っていて、ゆっくりと地面へと落ちていく自分を見ているような気がした。 ゆっくり動く曖昧な世界で、徐に彼女へ手を伸ばす。しかし、伸ばした手が少女へと届くことはなく、自分の身体はゆっくりと地面に近づいていく。 月明りの逆光で彼女の表情は見えない。けれど……その表情は、とても悲しげに見えた。 何故悲しい顔をしているのだろう。そう思った……次の瞬間だった! ゆっくりと動いていた世界は突然時間を取り戻したように早くなり、浮いているような感覚が突如重力に引っ張られ落下する感覚へと変わり、そのまま地面へと急速に近づいていく。 その刹那に気が付く。自分は浮いていたのではなく、落ちていたのだと。 そして、何を思う間も無く、ただ恐怖に支配されたまま、身体は地面へと激突した。
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