パンが食べたいだけで

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 食パンが一通り売れると、食パンをカット。  マヨネーズは既製品。たまごを潰す道具があるのだ。ジャガイモを潰す用のもので、重い。 「サンドイッチですか?」  私は聞いた。 「うん。これは試作。いい卵で高いんだ。玉ねぎ入れる?」  言われてみれば黄身が黄色を通り越して金色。 「はい」 「スライスしてあるよ」  玉ねぎもちゃんと水に浸けてあった。  パンには、からしマヨネーズ。私が殻を剥いたぐちゃぐちゃのたまごを多めに挟む。 「待って。子どもは辛いの嫌いじゃないですか?」  からしが黄色すぎるから制止する。 「そうかも。君は大丈夫?」 「はい、好きです」  サンドイッチ屋みたいにパパっと作ってくれる。パンに挟まれれば私が剥いた卵たちはもうきちんと一端の具材の顔をしていた。 「どうぞ」 「いただきます」  食パンの味がする。 「玉ねぎはカットのほうがいいかな?」  私の食べたかが下手でびよーんとなってしまったから、彼が気にしてメモを取る。 「そうですね。パンも厚すぎ」  私が世間から離れている間に食べづらいものも増えたのだろうか。 「ふむふむ」  きちんとメモを取る人ってなんとなく好き。信用できる気がする。  とりあえず今日は玉ねぎなしで売り出した。プレミアムたまごサンドイッチ。私が剥いた卵が商品になって売れてゆく。びっくり。私が剥きましたと公言したい。  店主は器用に両手でロールパンを作る。伸ばして、掌で押し付けるようにくるくる。  クロワッサンもクルクル。 「へえ。そうやって作るんですね」  客足が少ないから、それを見越して多くは作らないようだ。もっと売れたら、たくさん作るのだろうか。  メロンパンにウインナーロール。 「食べる?」  と私に視線を向ける。 「はい。でも私、今日はそんなにお金なくて。500円に納まるくらいで」 「あははは。お金なんて取らないよ。そうだ、時給の相談もしてなかったね。最低賃金で勘弁してほしいけど」 「充分です」
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