パンが食べたいだけで

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「大丈夫でしたか?」  息切れをするイサさんに聞く。 「うん、普通。普通によかった」  なんだろう。こんなふうに裸で男の人と抱き合うのが初めてで、セックス自体よりもこっちのほうがもぞもぞとする。  また触ってほしいな。あ、ぎゅっとしてくれてる。背中に他人の指があるのってこそばゆい。素肌だし。胸、近いな。私の視界、全部イサさんだ。乳首の周りに毛が生えてる。変なの。胸毛ちょろちょろ。9本だけ。なんでだろう。毛は身を守るためにあるらしいけれど、これでプロテクトできるのだろうか。妻になるなら守ってあげたい。  本当になるのだろうか。ならなかったら抱きたかっただけ? それでもこんな私に欲情してくれて嬉しい。  もう、寝息。私もこのまま寝ていいの? 服着ないで? こんなこと、誰に聞けばいいのだろう。  知らない人の匂いがする。家の匂いなのかな。  手を伸ばしたくらいでは照明が消せない。リモコンではない古い紐のタイプ。手を伸ばしたらイサさんを抱き締めていた。熟睡してるから気づかないだろう。こんなふうに人に抱きつくことが初めてな気がする。あったかい。  急展開すぎる。パート、セックス。人生ってこういうものなのだ。だからみんな面白くて生きている。いや、違う。ひきこもっていた反動だ。ひきこもっていたときに、運を貯めた。あのプレハブは磁場が強い場所にあるのかもしれない。
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