パンが食べたいだけで

19/67
465人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 昼食を食べそこねたのか、忙しさで忘れたのか、夕方になってようやく休みなく働くイサさんのお腹がぐーっと鳴った。 「今日は売れたな。もう閉めよう。夕飯食べに行かない?」  イサさんが誘ってくれる。 「まだ4時ですよ」  夕飯前にまた混雑するのではないだろうか。 「そこそこ売れたからいいよ。忙しくて嫌だなって思ってない? 暇なときは本当に暇なんだよ。パンを更に焼いてラスクにしちゃうくらい」 「それもおいしそう」 「今度作ってあげるね」 「はい」  甘すぎないラスクを作ってもらおう。 「なに食べ行こうかな?」  さっと階段を駆け上って着替えるついでにシーツを取り込んでくれる。手を取るようにわかる。間取りのせい? 古い家のせい?   イサさんは上半身だけ白衣。それと白い帽子。男前ではない。愛嬌のある顔。近づかないとわからないけど、瞳が茶色だなって既に幾度が思ってる。  私が162センチだから身長は175ないくらい。自分の好みもないからわからないが、そんなに嫌いじゃない。嫌いだったら抱かれてない。むしろイケメンじゃないほうが安心する。 「行こう」 「はい」  お店の鍵を締めて出かける。  あ、影になってくれている。その優しさ、たぶん私しか気づかないだろう。欲さないし、むしろ迷惑な人もいる。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!