パンが食べたいだけで

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 午後はやっぱりのんびり。だから休憩時間に私はオムライスを作った。 「これしか作れなくて」  私が1人暮らしで得た唯一の得意料理。1人だとたまごは巻かずに乗せるだけ。今日はとろとろバージョンにした。 「うまそう。いただきます。うん、おいしい」 「パンには挟めないですけどね」 「すごくおいしいよ、まおさん」  あなたの笑った顔にどきってする。こんなにすぐ好きって騙されてる? 騙してる? その顔をいつまでも見ていたいって思ってしまう。  夕方、イサさんの友達が来て売れ残りを全部買ってくれた。 「こいつ、マサミチ。リトルリーグのコーチやってて」  私が今までの人生で会った誰よりも縦も横にもでかい人だった。 「イサ、新しいバイトの人?」  イサさんでさえ見下ろされている。 「ううん。まおさん。奥さん」 「は? えっ? は?」  彼の素っ頓狂な声にびっくり。 「結婚するの」  飄々とイサさんが答える。 「いつ?」 「近々」 「聞いてねえよ」 「言ってないからね」  2人の噛み合わない会話を耳にしているのは辛かった。 「わかります。私も寝耳に水っていうか晴天の霹靂で」  私は言った。 「まおさん難しい言葉使うんだね。すごーい」  イサさんが私の頭を撫でる。 「とりあえず帰るわ。イサ、あとで電話するね」  自分の家でもないのに当然のようにそこに居座って、夕飯を食べてお風呂に入る。私だってまだ違和感だらけです。私に順応性が備わっているとは思えない。もしあったら、会社を辞めなかった。あんなに先輩を恨むほど嫌いにならなかっただろう。プレハブの中での生活を強がりで楽しいと自分を誤魔化し続けなかったはず。
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