パンが食べたいだけで

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 スマホがなければ日にちの感覚を失っていたと思う。それくらい、世俗から離れた。テレビも見れるのだろうけれど、バッテリーが心配。スマホが命だった。これがなければネットで生活必需品の注文もできないし、日記も書けない。  洗濯だけは困った。ある日、溜めて外に出しておくと洗って戻って来た。父が洗ってくれているのだろうか。とりあえず、助かる。パンツなどの小さいものは洗い場でなんとかすませた。  野菜ジュースと牛乳で栄養を取っているつもり。  ひきこもり日記のブログを書いてはいるが、たいした収益にはなっていない。それでもネットバンク様々だ。いろんなことがプレハブから出ずに事足りる。いらないものを売ればお金になる。画集やらCDってわりと金になる。そういうために持っていたわけではないけれど、高値がつくと単純に嬉しかった。集配にも来てもらえる。あまりにも金に困るとうっかり自分のパンツにまで値をつけてしまいそうだった。だめだめ。線引きは必要だ。便利すぎる時代のせいでこうやってひきこもりが増えるのだろう。  そうしていると、どんどん時間だけが経過した。夏は暑いからエアコンもあるけれど扇風機を追加購入。風を回さないとプレハブの中はすぐに温度が高くなる。冬は1人用のホットカーペット。一通りのものを揃えてしまうとここでの生活が快適すぎる。なにからも縛られず、当然、先輩もいない。ノンストレス。あっという間に4年。しかし、そのままだと廃人になりかねない。それには少しばかり怯える。でも誰からも傷つけないし、誰も傷つけない生活は無意味ながら安堵する。クリスマスなどのイベントごとは無関係。父と父の奥さんがどういう生活をしているのかも気にならない。あっちのほうが気にしてくれている。外には出ないのにダウンコートの差し入れ。部屋の中で着られるパーカーとか半纏のほうがいいのに。  心愛さんがくれる服はいつも新品。家族でもおさがりじゃない。他人だもの。きょうだいでも娘でもない。面倒な他人を庭に住まわせてあげていると、得意の上から目線を発動させているのだろう。  私の生活圏は大股で4歩。きれいにしているのはその中の2歩圏内。狭いし、ゴミが増えるのは当然だ。少し片づけて、不要なものをまとめる。緑茶が好きだけれど、茶殻が出るからインスタントのコーヒーかお湯で溶かせるものが助かる。飲み物ばかりが豊富になる。ピーチティーとカモミール、花の開く茉莉花茶。温かい飲み物がほっとするのは今日が極寒だからだろう。  ああ、パンが食べたい。その日、無性にそう思った。歯止めがきかない。クッキーを食べてみる。違う。素材は近いはずなのに。ふわっとしたものを欲する。  焼きたてがいい。  米ならある。米でもパンが作れることは知っている。マシーンが届くのに1日、水に浸しで出来上がるのに更に1日。  2日も待っていられない。短気なのだと思う。そうでなかったら、もう少し様々なことに耐えられた。
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