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えいっとドアを開けた。
明るい。眩しい。
「寒っ」
風でドアが勝手に閉まった。まるで外へは出るなと言われているよう。
もう疲れていた。新鮮な空気に浄化された体が野外に拒否反応を示す。
でも、パンが食べたい。
目を閉じてもう一度ドアを開けた。一歩を踏み出す。
震えているのは脚じゃない。全身身震い。
庭に出る。門を出る。
道路だ。久しぶり。
心の中ではずっとうぉと小さく叫んでいた。歩を進めるほど、プレハブが遠くなる。パンに近づくけれど、家からは離れる。うちがパン屋ならよかった。
4年経っても、車はまだ地面を通っている。浮いていない。ロボットも歩いていない。靴を履いて歩く感触も変わっていない。人の気配がすると違う道に進んだ。
家の周りの風景はさほど変化はない。そこの信号に出たらちょっと広い道になるはず。うん、変わっていない。
左へ曲がれば、オレンジの家。少し色褪せたかな。
ここはよく兄と歩いたことを思い出す。父と母が別れたのは私が小4のとき。母が兄を連れていってしまった。その2人と血がつながっていなかったことを知らされたのは高校生のとき。父が心愛さんと再婚をして彼女から聞かされたのでショックは倍増。
ひきこもりになったことをあんあんは知っていた。あんあんというのは血のつながらない兄のこと。たまにメールが来た。『元気?』『まだひきこもってる?』とか軽い感じだった。
「あんあん、今、私、外に出てるよ」
あんあんは私のことを『ほわ子』と呼んだ。ほわっとしているからだそうだ。もうずいぶんと会っていない。他人だから、会う必要がないのだろうか。兄として妹が心配じゃなかったのだろうか。
勢いで歩いてきて、パン屋を探していなかったことに気づく。コンビニではなくパン屋さんのパンがいい。焼きたてを希望なんて贅沢な願いかしら。
商店街にあったはず。遠いな。新しそうなカフェに『パンあります』と看板があるけれど、こんなざんばら頭でうろついていたら通報されやしないだろうか。髪は自分で切っている。器用なほうではない。ガラスに映った自分が不審者に見えたのでそこでサングラスを外した。
冬の日中ってこんなに眩しかったかな。太陽が出ているのに寒い。でも、まだパンを欲する。
プレハブの中の浄化された空気よりも外のほうがすっきりする。
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