証明

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証明

けっきょくルエナ嬢が自分の侍女に持たせた本当の文句──「家格を弁え、今すぐ王太子殿下の御前から下がりなさい」という言葉を間違わずに言うことはなかった。 それは公爵令嬢として低位貴族と見下している子爵令嬢へ対する頑なな矜持だったのかもしれないが、リオンとシーナが事前にゲームや小説の内容を知らなければ、ルエナ嬢の発言を誤解したまま断罪の揚げ足に使われかねない発言でもある。 「でもゲームとかではルエナ様が直接アタシのところに言いに来るはずだったのよね」 「そ、そうなのか……?」 何度聞かされても、アルベールにしてみれば我が妹ながら気位が高すぎると苦々しく思うあの性格で、王太子と共にいるシーナ嬢の前に現れるとは、やはり想像しづらく信じがたい。 「そうよ。逆に言えば来ない方がシナリオから外れる……いわば異常事態。ゲーム補正としてかもしれないけど、サラが盛り盛りにした『ルエナ様からの伝言』とアタシを見下す態度が、それそこあの場面とほぼ同じだったもの」 むろんリオンもシーナもゲームや小説の通りに動くつもりはなかったが、うっとおしいほどに側に侍るシーナ親衛隊──もとい王太子の学園側近の五人がそれぞれの表情でサラを睨みつけたり探るような目付きをしていた。 あの時は彼らとサラはまったく繋がりがないと思っていたが、接点はもっと別の方向から見なければわからないのかもしれない。 「あれ……?でも、アルはサラと同い年だから、この学園でも顔を合わせていたんじゃないの?」 「……だと思うんだが……いや、やはり覚えがないな……もっとも俺は特級クラスでも王室勤めが決まっている者たちのクラスだったから……」 「え?そんな分け方だったの?!」 単なる特級一・二・三、普通一・二・三、そして下級の一・二・三──そんな分け方だとボンヤリ思っていたが、実際はすでに所属するクラスによってもう将来が決められていたというのは、シーナは初耳だった。 「え?じゃあ何?アタシがもし特級一で、ルエナ様やリオンと同じクラスになっていたとしたら……」 「ひょっとすると……子爵位初めての王太子妃側近侍女ぐらいには噂されていたかもしれない。もしくはやはり殿下の愛人やその…特別な関係のある女性(ひと)として……」 「うげぇ……」 確かに何の縁もないのに特に成績が優れているわけでもない子爵令嬢が突然編入してきて特権階級と見なされるクラスに入れられ、しかも王太子と親しげに話す間柄であったなら、幼馴染というよりも別の馴染と受け取られかねないだろう──実際に入学許可をリオン王太子が母親である王妃を通して学園からもぎ取った事実があるのだ。 ルエナ嬢の断罪シーン回避のために打ち合わせ通りにリオンがシーナの学園案内と世話役を買って出たという経緯はあるものの、それを知っているのはアルベールを含めた三人だけである。 だからこそまず初めにシナリオ修正が難しい『特級クラスで王太子やルエナ嬢と顔を合わせる』ことを回避して下位クラスに入れてもらえるようにした。 そして入学以前から様子のおかしかったルエナ嬢がゲームのシナリオ通りに補正され、シーナに何かしらヤラかしても逆修正するつもりだったし、実際まったく彼女が関わらない部分で他の令嬢たちがヤラかしてきたのである。 もっとも最初はルエナ嬢自身が手を回したり唆したりして、他の令嬢に指示を出しているのかと勘繰らないでもなかった。 だが違うと確信したのは、シーナに向かって派遣されるのが必ずルエナ嬢の侍女ばかりで、しかも口頭での注意のみである。 下位中の下位と見下し、最初の頃は侍女の中でも真っ正直に言われたことを繰り返すだけの『ディーファン公爵家の侍女』だった。 だがリオンと行動を共にしている時はサラが一筆書きのような伝言を持って現れるだけであり、そこで何かしら被害を受けたということはない。 むしろリオンもルエナ嬢もいないからこそという場面でのみ何かしら嫌がらせが行われ、ルエナ嬢に命じられた(・・・・・・・・・・)痕跡を残すからこそ、逆説的に彼女の指示ではないという回答を導き出したのである。
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