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後悔
ルエナは状況を飲み込めず、婚約者であるリオン王太子に抱きすくめられたまま、ゆっくりと目を開けた。
筋肉が無意識にピクリと動いたのを感じたリオンがほぅ…と安堵の溜息を漏らすのが頭越しに聞こえたが、さらに強く抱きしめられて気持ちだけ焦る。
「……ぁ……」
「はぁっ……よかった……気が付いた……本当によかった……あなたが目を覚まさなかったらどうしようかと思った……よかった……よかったぁ………」
間に合った。
今度は。
続くその呟きの意味はわからず、しかしルエナは未婚の男女がこうやって密着していることに激しい羞恥心を覚え、まだ力が入らないのに力いっぱい抱き締めるリオンの腕から逃れようと微かに身動ぎをした。
「ぅぁ……の……で……でん、か……の……お、は……」
「ん?ああ!おはよう、ルエナ嬢。頭痛はしない?一応、学園の医局室の者を呼んでいるんだけど……そういえば遅いな……?」
「ひぃぇっ……ぁ、あのっ……お、お放し、にっ……」
「え?あっ……あ、ああっ!いやっ!これはそのっ……」
ようやく身体を離したが、リオンは未練がましくルエナ嬢の手を取ってソファに隣り合わせで座りこんで離れようとはしない。
「でっ…殿下っ……ちっ、近すぎます、わっ……」
気絶する前にもずいぶん接近していたのに頭を打ったショックでそれを忘れているのか、ルエナ嬢が距離を取ろうとソファの上で身動ぎしたが、リオンはそれを許さずすかさず距離を縮める。
「……いや。もっと早くから、こうしてあなたを捕まえておけばよかったんだ。攻略だの、断罪シーンを排除だの……あなたの様子がおかしいと気が付いていたのに、俺自身が子供だからという理由で放置してしまった……」
「あ、あの……?」
「いや……子供だったからこそ、その特性を活かして、君を公爵家の使用人たちから引き離すべきだった……」
さすがに前世を思い出すまではリオンが王子として生きていたとしても、ルエナのことを保護することはできなかったが、詩音と再会した後であれば可能だったかもしれない。
まだあの頃は弟は産まれておらず、リオンの我儘なら大抵は聞いてもらえたはずで、ルエナを王宮に閉じ込めて害毒を与えるような者を置くことはなかったはずだ。
ゲームのシナリオが恋愛を基準とした貴族学園内に焦点が当てられており、それ以外の連綿と続く時間の流れは考慮されていなかったのだから、思いつかなかったのも仕方がないとは言えるのだが──
「……もうそろそろ、いいんじゃないのか?」
「あの、で、殿下……?何を、おっしゃっているのか……」
「あなたに聞いてほしいことがあるんだ」
「え?あ、あの……」
「あなたと、私と、そしてシーナ嬢との関係について」
ビクッとルエナの身体が跳ね、表情が固まった。
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