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昼食・2
美味い。
美味い。
『美味しい』なんてお上品な感想がバカバカしくなるぐらい、美味い。
『簡易的』なはずなのに、冷めても美味い。
ヴィシソワーズ。
茹で野菜とパリッとした青菜を合わせたサラダ。
ローストビーフ。
スライスされたパン。
デザートはチーズケーキ。
スープとデザートはともかく、サラダとローストビーフをパンで挟めば、あっという間にサンドイッチの出来上がり。
別添えで入れられていた、西洋わさびが混ぜられた卵と酢のソース──いわゆるマヨネーズを塗ればさらに美味い。
「くぅぅぅっ……さすがに公爵家の厨房を任されるだけある……悔しいっ……」
用意された皿の上でササッと手早くサンドイッチを仕立て、ローストビーフ用のナイフでふたつに切ってアルベールに差し出したシーナはそう言いながら、それでも満面の笑みでどれだけの口福を味わっているのかを表現している。
ちなみに料理はもうひとり分あり、そちらもサンドイッチとなったが、目を覚ましたイストフと彼を医局室に運んでくれたクールファニー男爵令息のリオネルとリュシアン兄弟が相伴に与っていた。
「うんめぇ……食堂のおばちゃんのサンドイッチより数倍美味い……」
「うん、美味しい。素材だけじゃなく、やっぱり調理とかいろいろ要素はあるんだろうな。母さんの料理も美味いけど」
兄弟はそれぞれ恍惚としながら感想を言い合い、イストフは感慨深そうに無言でゆっくりと食べている。
二人前の食事を五人で分け合うというのは少なすぎるような気がするが、公爵家から届いた量は四人前と言ってもおかしくはなく、これもまた『公爵家としての矜持』なのかもしれなかった。
「やっぱり積み重ねって大事よねぇ……どう足掻いても『上級使用人を目指せ!』的なカリキュラムのおままごと見習い授業じゃぁねぇ……」
「あ!?やっぱり?そう思った?」
「思った!ここで習ってることじゃ従僕とか広間侍女の中でもイイ線行くくらいで、それ以上行くためにはゴマすりと場の空気読み能力が必須とか……ある程度性格汚くないとやってられないとか……」
「うん……そうだよねぇ……兄上はともかく僕は王宮で官職採用がなければ、父上の縁を頼って伯爵家の侍従に雇ってもらえればいいんだけど……」
「そんなこと!僕がリュシアンを追い出すわけないじゃないか!男爵家とは言え本家から分けられた領地だってあるんだ。領民たちの生活を少しでも良くすることが、僕ら兄弟の役目だ!」
何とも志の高い兄と将来を悲観しがちな弟の寸劇のようなやり取りに、シーナがパチパチと拍手をする。
将来は仕事どころか生活すら心配する必要のないディーファン公爵家跡取り様と、雇われる先に関しては王太子直属ではなくとも王宮近衛兵入りは確実な学園内剣術上位者様は何とも言えない表情で顔を見合わせた。
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