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たぶんリオンには『このヒト、オープニング語りの書神の若かりし頃!』とでも言えば、きっと全部通じる。 何せやりこみとハマりぐあいでは詩音よりもよほど深く、よくまあ健全な男子が乙女ゲームを熱く語るよね…と、若干──いや、かなりドン引いて凛音の声を聴いていた。 そんなにルエナ様がご贔屓なら、ヒロイン逆ハーではなく悪役令嬢逆ハーバージョンを描いてやったら「俺のルエナ様は他の男たちと共有されたりしない!」とか何とか意味不明なことを叫んでいたことを、実はアルベールには黙っているが。 さすがに自分が仕える上司が、自分の妹を溺愛しまくってゲームの中とはいえ「修道女姿、尊い…」と目を潤ませていたとはとても言えない。 「まあ確かにルエナ様にリオン側近すべてが侍るとか、ないわー……」 「ん?何か言ったか?」 「ううん。ちゃんとリオンはルエナ様に誤解を解けたのかな~…って」 誤解とは。 すなわち今の状態になるまで、ルエナ嬢だけを蚊帳の外に、シーナに危害や嫌がらせを仕掛けてくる『別の悪役令嬢』を焙りだす作戦を行っていたことだ。 とはいえ── 「ルエナ様がアタシに嫌がらせやら虐めやらをできない状態なら、単にアタシは『王太子が慈善活動のために慣れない学園でのエスコート役を一時的に買って出ただけの子爵令嬢』なのよね」 「う、うむ……それはそう、なのだが」 シーナの疑問に、アルベールは歯切れが悪い。 もしシーナが高位貴族に引き取られた遠縁の娘だったら。 もしこの国の貴族ではなく、友好関係にある国の高位貴族や王家に繋がる令嬢として留学してきたのならば。 そんな(ないがし)ろにできない身分の令嬢ならば王太子が仮初めのエスコート役として学園に慣れるまで側にいるかもしれないが、シーナ自身はオイン子爵家当主の弟の娘──王家の血を引く子を身籠ろうとも、けっして認知されず己自身も愛妾という立場にすらなれず、誰かに下賜されることも憚られる孤独な人生を送ることを余儀なくされるほどの低位身分だ。 もっともシーナがリオンの隠された愛人になるなどとは、天地がひっくり返ってもあり得ないとシーナ自身とアルベールはわかっているが。 「……それを他人が信じるかどうか」 「そうよねぇ。だからこそ、こうやって『ゲームと同じように』アタシへの虐めやらなんやら、けっきょくはシナリオ通りに起きているわけだし」 それはともかく、少なくとも学園内の側近のひとりはこちら側になり、もうひとりは雲隠れし、残りは捕縛されたとリオンたちに伝えに行かねばならない。
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