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それにしてもしつこいことだ──もうすでにルエナ・リル・ディーファンという少女は『悪役令嬢』としての役割を果たさず、あろうことかヒロインのシーナ・ティア・オイン令嬢とは『友人』という間柄。
ヒロインとヒーローが積極的にゲームストーリー改変に動いたため予定調和は崩れたはずなのに、いまだシーナへの嫌がらせとルエナに罪を擦り付ける噂が絶えない。
もっともルエナの件に関しては声高だったものが、陰口ぐらいに密やかになり、ひょっとしたら彼女は無関係ではないかという疑問の声がないわけではない。
ルエナが正常ではなかった時、シーナに対する嫌がらせや悪口などを『ディーファン公爵家の令嬢』という『権力』を笠に着た他家の令嬢たちが自分勝手に行い、何故かそれらはバッティングせず上手い具合に発動し──シーナにとっては次から次へと飽きもせずとしか思えなかったが──ルエナに対する周囲の期待は底辺どころか地に落ちまくっていて、「もうすぐ婚約破棄されるに違いない」とまことしやかに囁かれていた。
もちろんそんなことはまったくなく、あったとしてもまずは王宮でルエナが誰に対して危害を加えたかが調査され、被害者はどういう状況でどれだけの被害に遭ったのかも調べられ、そしてそれにふさわしい罰が公爵から下され、その内容とルエナ嬢の態度や言動をもって公爵家だけでなく王家からも監視人が派遣されて経過観察され、それらを経てからルエナが王太子妃にふさわしいかどうかという結論が出され、沙汰が下される。
たかが未成年の集う学園内でのいざこざ程度で極論が出ようはずもなく、それよりも王太子であり婚約者でもあるリオンが逆に自分の身分を顧みず、下位貴族の娘が好き放題に幾人もの令息を手玉に取ることを微笑ましく見ているだけで『未来の為政者』としての義務を放棄していたとしたならば、そちらの方がより重大問題とされるだろう。
女の戦いは女だけの問題──というには未成年の令嬢は幼すぎ、たとえ社交界の縮図だとしても、それが自分たちの責任ではなく両親や貴族政治に爆弾を落としかねない愚挙であると気付かないのだから、当然自分たちがオイン子爵令嬢に与えた被害がどう帰ってくるのかも考えていないに違いない。
だいたい各家の情報収集力を正確に把握しているのか?
王家は当然のようにその能力のある者たちを多数抱えているし、今回の『シーナ加害者炙り出し』に関してもすでにルエナ嬢の身辺だけでなく、学園内で誰が何をしたのかすら把握している。
ディーファン公爵家内のことに関してはさすがに手を出してはいないが、そこはリオンとシーナが前世の知識を駆使し、大人たちが知らないところまで推理をすすめて結果的に正解に辿り着いていた。
ただしそれはあくまでも『子供なりに考えた』という枕詞がついてしまい、裏付けには時間がかかる。
だがルエナの中毒具合から猶予はないと考えてすでに手を打ったことはリオンの両親である国王夫妻には伝えてあり、ルエナの近辺から害を除いた結果、毒が抜けて正常に戻っていく様を見れば、その推察力と報告内容が侮れないことは確かだった。
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