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誤解
つまりルエナ嬢の健康や精神的な問題が解決さえすれば、将来の王太子妃となることには何の問題もないとされ、リオン王太子が望むままに彼女を婚約者として横に置くことができる。
むしろオイン子爵令嬢シーナが王太子のそばに侍ったことこそ学園内の平穏と秩序を乱した原因と言われかねないが、すでに彼女は幼少期から王太子と面識があり、その血筋的にもただの平民ではなくオイン子爵の弟が実父だというのは公表されると、恋愛はともかくとして王太子が親しくするのに支障はないと判明した。
だがそれでも、やはり低位貴族が未来の王太子妃という立場が約束されているルエナを差し置いて、彼の側に堂々と立つのは目につき過ぎる。
むしろ「子爵家の令嬢が側に侍れるならば、もっと高位の自分がその立場になってもいいはずだ」という思い込みで、シーナを蹴落とすためだったというのが、慎み深いはずの貴族令嬢たちの行動理由だったらしい。
「侍るって……子供の頃と今と、あんまり態度は変わってないと思うんだけど……」
「うん。シオ…シーナはそれでいい、と僕も思っていたけどね。どうやらその態度が『貴族らしくなくて新鮮だ』と僕に見初められたらしい…ということなんだけど」
「あ」
ありがちな、テンプレート展開と思考。
そしてその『貴族令嬢らしからぬ態度』こそが、シーナを正し、それができないのだから排除するという方向に行った。
というのがあちらの言い分なのだが。
「……確かに、シーナの…シーナ嬢の身分差を気にしないという性格や物言いは……俺たちにとっても斬新で心地良くて……」
それは良い方への受け取り方であり、端から見れば単なる傍若無人な振る舞いをする非常識な人間である。
シーナにしてみれば前世からの繋がりでリオンを男とすら認識せず、それはもう生まれた時から一緒にいる双子時代の延長上で一緒にいただけであり、同じく学園内側近のイストフらに対しても異性という認識を持っていなかったというだけのこと。
それはもう徹底して彼らを『男』として意識したくないという、魂の記憶と恐怖からであった。
「……そのことについては、うん……何と言っていいのか……ごめん……」
だがそれをきちんと言語化しようとすれば、シーナだけでなくリオンの前世にも触れればならず、しかも二人の記憶の中にあるこの世界が『ゲーム』と『設定』で成り立っているらしいという荒唐無稽な説明をする必要があり、シーナとしては曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
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