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努力
ルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢は、ここ最近習慣づいてしまった婚約者とのお茶の席で、少し困ったような顔をしてチラリと視線を上げた。
だがそれを受けとるはずの婚約者──リオン・シュタイン・ダンガフ王太子は、無理に視線を合わせることなく手にした本を眺めている。
本来ならば今は男女が分かれてそれぞれ選択した授業を受けているはずなのだが、ルエナが復学してからはリオンとともに受けられない授業はすべて欠席させられ、代わりにお題を設けた『模擬お茶会』で向かい合わせに座らねばならない。
むろんそれが嫌だというわけではないが、実のところルエナ自身は自分の婚約者のことをどう考えればいいのかと、態度を決めかねている。
好きか嫌いかと問われれば悪感情を抱いていない以上『好き』に近いものだと思うが、だいたい恋愛感情を抱くより前に結ばれた婚約が気持ちを置いてきぼりにし、隣に立ってもお互い『そこにある』置物のようだと思っている──はずだった。
「……あ、あの……」
こうして黙ったままでいる空気感に耐えきれず、先に声を上げると、返事の言葉を出すより前にキラリと輝く頭が動いて顔が持ち上げられ、目の前にいる人間が誰かと認識したらしいリオンは一拍だけ呼吸を挟んで、ふわりと優しく微笑み返した。
「どうしたんだい?ルエナ。他に何か食べたいお菓子がある?」
「えっ……あ、あのっ……いえ……そんな……」
目の前には様々な小さい皿が並び、1つか2つずつ違う焼き菓子やデザート、またはサンドイッチが並んでいる。
リオンとしては前世の知識にある『アフタヌーン・ティー』を再現したかったのだが、逆に「そんなに小さなテーブルでティータイムを過ごすなんて」と学園で世話をしてくれる者たちに眉を顰められ、大きめのテーブルと贅沢に何皿も並べられるスタイルとなった。
もちろんそれらが全部目の前にあるわけではなく、給仕をする者たちに指示を出して食べたい物を取ってもらうのだが──残念なことにルエナは幼少期からすべてを女家庭教師や侍女に管理されていたため、『好物』というものを自分で把握していないことを知る。
そのため、今日のお題は『好きな食べ物を教え合おう』だった。
「……とりあえず、サンドイッチはバターとキュウリ、タマゴ、サーモンとクリームチーズといったベタな物と、甘い物はシュークリームとショートケーキ、それとスコーンのクロテッドクリーム添えだよ」
「べ…べた?しょーと…?すこ……」
そういってリオンは自慢げにひとつずつを示しながら紹介したが、聞き慣れない言葉にルエナは戸惑いを隠しれなかった。
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