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変則
アルベールは当然領地にあるディーファン本邸で産まれ、数ヶ月ではあったが王都に来る前はその領地で育った。
しかしルエナはこの王都で産まれ、ほとんど領地には帰っていない。
その一因はルエナの母であるフルール・テュア・ディーファン公爵夫人の悪阻が酷く、領地まで馬車で移動するのが難しかったのと、その後も夫であるランベール・ムント・ディーファン公爵が領地よりも遥かに医療従事者が揃う王都で、安全に出産させたいと願ったためだった。
産まれた後は乳母に守られていたが、王都にいる間に親交を深めることになった他の高位貴族の夫人たちから娘の教育についてあれこれとアドバイスをもらった結果、悪意とルエナの精神を蝕むクスリ入りのお茶を持って入り込んだ女家庭教師や侍女を家に入れてしまうことになったのである。
リオンが前もってそれを阻止できればよかったのだろうが、何せ前世の記憶を取り戻した時にはすでに魔の手がルエナに伸びており、ゲームのシナリオがスタートする前から関係を改善することはできなかった。
それでもある程度回避できたのはルエナ自身が公爵令嬢として異常なほどプライドが高く、自分以外の貴族令嬢とツルんで他者を貶めることを良しとせず、むしろ他人を避けるように学園で過ごしていたためである。
おかげでシーナに対してルエナ自身が虐めたり激しく糾弾するなどの醜態を晒すことはなく、まさしく茶番であり言いがかりでしかない断罪劇を決行し、シーナをルエナの側に置いてルエナの心身を回復させることに成功した。
だがここまでくるのにこんなに時間を掛けたり、ルエナの代わりに王太子妃候補の座を確実にするという計画が、本当に企まれていたのだろうか?
リオンはそこまで計算して、ルエナを陥れようとしている者がいたとは思えなかった。
「しかし……シーナの護衛を一時的に務めるということで、しばらくぶりに学園に通いましたが……私が通っていた頃とはやはり雰囲気が違いましたね。そういう意味でも、やはり違和感はありましたが」
「ふぅん……違和感……」
年齢的には一つしか違わないが、城で王太子側近として学ばねばならなかったアルベールは飛び級で貴族学園を卒業し、最初の仕事として学園内側近たちをそばに置けるように手配したが、そこから彼の言う違和感が生じたのかもしれない。
「ええ。令嬢は皆、婚約者以外の令息と関わるどころか視線を合わせることすら滅多にありません。当然、私たちも自分の婚約者以外と積極的に交流を持つなどということもなく、自然と分かれて勉学に励んでいました」
「そう…なのか……」
リオンたちはもっと男女の距離が近く、前世の共学よりは距離はありつつも何とかリオンの目に留まろうとしていた令嬢がいたのは事実である。
だがそんな行動が本当はあってはならないことだとしたら──
「だいたい俺たちふたりが転生するっていうこと自体がイレギュラーなんだ……他にいたっておかしくはない…かもしれないな」
「殿下……」
あまり楽観視できない呟きに、アルベールが眉を顰めた。
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