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思案
リオンは伝令が持ってきた命令を聞き、呆然とした。
「………舞踏会?」
「はっ」
「卒業の儀の前に?」
「はっ」
「その衣装合わせのために、陛下の私室に?」
「は…はぁ……」
何度も繰り返し問われて困惑する表情を浮かべる伝令を、上の空ながら「諾」の返答を持たせて退出されると、同じ執務室ではあるが少し離れた机で仕事をしていたアルベールを呼びつける。
「……まずいことになった」
「はい?」
「私とシーナは……共通の記憶として、ルエナ嬢の断罪はあの夏長期休暇前の学園内舞踏会が、彼女の断罪シーンだと思っていたんだ」
「ええ、そう伺っておりました……だから妹が追放されるのを阻止するため、シーナ嬢を我がディーファン家へ迎え入れるため、あのようにお立場を利用されたと……」
アルベールはその時王宮で王太子の代理として権限が及ぶものを片付ける仕事を担っていたため、作戦は知っていても、何が起こったのかは伝聞でしか知らない。
だが今リオンが困惑した表情を浮かべているのを見るに、何か手違いがあったのだけはわかる。
手違いというか──勘違い。
簡単に言えば、そうらしい。
「いや…確かに考えてみたらおかしいんだ」
「何がでしょう?」
「ルエナ嬢があの場でシーナと仲良くなる……というのはちょっと違うけれど、とにかくシーナとは対立しない関係になったと、あの場でみんなに認識されたはずなんだ。なのに、今でもシーナに対する嫌がらせはわずかではあるがまだ発生しているし、ルエナがそれを指示しているという噂も完全には消えきっていない……何故だろう?」
「確かに……国王陛下から、ルエナと殿下との婚約を解消してはどうかという打診も来ていないようですし、我が家にいる彼女たちを仲違いさせようとする使用人はすべて解雇しましたから、そちらから問題が起こるとも思えません」
「……まあ、考えても仕方がないな。衣装合わせとやらをさっさと終わらせようか。ディーファン公爵家に本日伺うと先触れを出してくれないか」
「畏まりました」
リオンはまだ思案顔でアルベールに申しつけ、護衛を引き連れて王族の居住区域へと足を運んだ。
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