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住居
犬猫の擬人化を受け入れらないのは貴族の女性だけかと思ったが、どうやらこの世界ではまだまだ異端のようである。
その証拠に──
「なっ…何だ!シーナ!この悍ましい生き物は?!」
「は?」
ルエナとエリーに描いてあげたはいいものの拒否されてしまった擬人化犬と擬人化猫の仲良しイラストは、アルベールにも盛大に嫌がられ、その様を目にすることになったリオンも大袈裟なぐらい音を立てて椅子を後ろに下げて仰け反った幼馴染みにビックリした。
「いやぁ~、まさかと思ったけどねぇ……子供に可愛らしい絵を見せるのはダメとか、何かそんな教育でもされてるのかしらねぇ」
「こりゃ耳のデカいネズミ型少年も水兵さんぽいアヒル君も断固拒否されそうだな」
「な、何ですか?ネズミの形の少年?アヒルが水兵?殿下、まさかそんな悪夢を見られたことがあるのですか?!」
「わ~……夢の国の住人が悪魔呼ばわりだよ……」
住むところ──いや世界が変われば何とやら、か。
しかし子供を楽しませるのに『可愛い絵のついた本』とか、そういった物は本当に無いのだろうか──とシーナは自分の子供の頃を思い返すが、今世では貧民街に生まれてしまったせいか、父の生家はともかく母と祖母が生活していたというあの家には子供のためどころか大人が読むための本すらなかった。
しかもそれは王都の事情だけでなく、エリーを閉じ込めていたイェン伯爵家のあるエビフェールクス辺境地にもなかったようだし、やはり『絵本』という概念は無いのだろう。
「……と思うんだけど」
「そうだな……確かに、王宮の子供部屋や図書室にもなかった。母の住む王妃宮にも別宮にも、避暑のための別邸図書室にも……」
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」
「何だ?」
「いくつ『宮』があるの?王家って……」
「そりゃ、その時代の王家直系の数にもよるけど……王都の王宮で開かれているのは、国王が生活する王宮本邸だろ。正妃がひとりで休む時や子供が産まれる時に籠るための王妃宮。側妃を娶った時には部屋がいくつもある後宮。成人するまで生活する王子や王女の宮、それから俺が立太子したために改装された王太子宮……それからルエナが入宮したらその後ろに建てられている渡り廊下で繋がった王太子妃宮。これがこの王都内の王宮敷地にある」
「うっわー……贅沢ぅ」
「そうか?」
リオンが指折って数え上げるのを見て若干引き気味にシーナは感想を述べたが、アルベールはキョトンとした。
これでもこじんまりとした方で、国によっては王宮敷地外に王子王女だけでなく、側妃それぞれ屋敷を持たせる王もいる。
しかも現国王は側妃を持たないため、リオンが一応数に入れた後宮は今代では第二王子やこれから産まれる王位継承者が生活する場とすることになっており、王子宮は成人後に与えることを考えているらしい。
それを質素すぎると騒いでいる貴族もいるようだが、リオンは自分が王になればさらに王家直系の生活する宮をもう少しまとめ、王と王妃だけでなく子供も同じ宮で生活したいと思っている。
それはひょっとしたら前世で両親が別々の生活をしていたことや、妹を守り切れなかった後悔、少しぐらいは期待していた兄弟で仲良く生きること──そんな幻想を昇華したいという気持ちの表れだったかもしれない。
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