1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
迎賓館では豪華絢爛なパーティーが開かれていた。
社交の場が得意な方ではない碇(いかり)博士は、
着慣れないタキシードに身を包み、
政府のお偉方とぎこちなく挨拶を交わしていた。
きょうのパーティは自分が主役。そして、この場が
自分の人生の分水嶺になるかもしれない。
如才なく振舞い、自分を最大限アピールしなくてはならない。
緊張のあまり、額に汗がにじむ。
胸ポケットから飾りのハンカチーフを引き出し汗を拭ったその時、
黒髪を後ろに撫でつけた、ひときわ恰幅の良い軍服姿の男が入ってきた。
胸にはいくつもの勲章がぶら下がっている。
傍らには赤いカクテルドレスを着た美女が付き従っている。
碇はすぐに2人に気が付き、直立不動の姿勢で挨拶をした。
「閣下。本日はこのような晴れがましい席をご用意いただき、
ありがとうございます」
閣下と呼ばれた男は鷹揚に答えた。
「そんなにしゃちほこ張ることはない。きょうの主役は君なんだから。
しかし、本当に素晴らしい成果を出してくれた。
この発明で、我が国の人民1億人が救われるかもしれない」
「お褒めに預かり光栄です。
これもひとえに、閣下がこの研究のために
莫大な費用を提供くださったからこそです。
それがなければ、決してここまではたどり着けませんでした」
「あの発明の価値からすれば安い投資だ。実用化までもう一歩。
必要なものがあれば何でも言いなさい。すぐに用意させよう」
最初のコメントを投稿しよう!