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発情期を一緒になんて・・・。
それほど先生は弱っているということだ。だけど、僕にとって発情期を一緒に過ごすということは、番や結婚を決めた人とだけ。その場に流されて・・・ましてや誰かの番であり夫である人となんて絶対にありえない。
ごめんね、先生。
こればかりは僕も譲れないんだ。
僕は足早にマンションを出て、自宅へ向かった。
本当は大学に行こうと思ってたけど、先生に会うのを避けるために今日から発情期欠席にした。だけどバイトは急に休むと迷惑なので予定通り出て、明日から休みに入ることにする。
あと10分。
そろそろ来るかと思ったあの人は、今日は来なかった。
僕がいる時にいつも買いに来てくれてたと思ったのは、勘違いだった?
そうだよね。
あんなハイスペックなアルファが、僕なんかを相手にしたりするわけない。
そう思いながらバックヤードに下がって帰る支度をする。
休む前に会いたかったな・・・。そう思って慌てて頭を振った。
何考えてるんだろう。
いつもはこんなこと考えないのに・・・。
それで気がついた。顔が火照っていることに。
そう言えば少し暑い・・・。
発情期の兆しを感じて僕は抑制剤を飲もうとポケットに手を入れ、バッグから水を取り出した。そしてそれを歩きながら開けて飲もうとしたその時、薬を持っていた手を掴まれる。
あ、と思った時には遅かった。抑制剤は僕の手から落ちて夜の暗闇の中に消えてしまった。
「律希・・・!」
発情しかけた身体にアルファの香り・・・。心臓が大きく脈打つ。
「先・・・生・・・」
どくどくと早くなる鼓動に上がる吐息。
飲もうと思った抑制剤は落としてしまってもう見えない。
どうしよう・・・!?
発情するのが早い・・・!
小刻みに震え出した身体は徐々に言うことを聞かなくなっていく。まだ理性が働くうちに先生から離れて、家に帰らなきゃ。
「先生どうしてここへ?」
バイト先なんて教えてなかったはずなのに・・・。
僕は何とか先生の手を離させようとするけど、上手く力が入らない。それに気づいたのか、先生はさらに手に力を込めて僕の腕を引っ張る。
「律希がこの駅で降りるのを知っていたから、もしかしたらと思って近いところから順に見て回ったんだ」
そう言いながら僕の腕を引っ張って歩き出す。そして停めてあった車の後部座席のドアを開けると、そこに僕を押し入れた。その勢いに僕はシートにうつ伏せに倒れ込む。その時吸い込んだ先生の香りに身体が固まる。
早く・・・逃げなきゃ・・・。
まだ何とか動く身体でシートから起き上がり、外に出ようとしたその瞬間、上から先生にのしかかられた。
「逃げようとしてる?」
ゾッとするほど低い声。
聞いたことの無いその声に僕は恐怖する。なのに身体はアルファを求めて更に身体を熱くした。
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