初恋

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発情期の激しい波が去り、束の間の休息時間。やっぱり僕は精も根も尽き果てて、こうやってベッドに沈んでいたんだ。あの時はまだ発情期中だったから、波が去ってもまだ頭はぼうっとしていてよく回っておらず、うなじを噛まれたのにそれを理解できていなかった・・・というか、噛まれたことに気づいていなかった。だからその時言われた言葉も理解はしてなかったのに、支配欲を含ませて言われた言葉にそのまま返事して、さらに書類にサインしたのだ。はんこもついた覚えもある。 あれ、婚姻届だったんだ・・・。 それを思い出して、僕に服を着せてくれてる彼を見た。 「思い出したんですけど、あれって同意したことになるんですか?」 確かに言われたまま返事をして、自分でサインしてはんこも押した。でも発情期中で頭は飛んだままで、アルファの支配を受けてしたことだ。 「ん?なにか不満かな?」 そう言って僕に軽くキスをする。 「過程はどうあれ、律希はオレと番になって結婚したのは嫌なのか?」 口許は笑っているけど目は笑っていない。その目をじっと見る。 目が覚めた時、この人が好きだと自覚した。 いつから好きなのかはまだ分かってないけど、彼の香りに包まれて、彼の支配の下にいることを幸福だと感じる。 嫌なわけがない。 僕は首を横に振った。 「でも分からないんです。僕たちがいつ始まったのか」 コンビニのお客さんで来たのが初めて? でもあの時はこんなに特別な思いはなかった。 「律希は知ってるはずなんだけどな・・・。じゃあ宿題だ。オレはこれから仕事に行かなきゃいけないから、帰ってくるまでに思い出しておくこと」 そう言って鍵を渡してくれる。 「ここの鍵だ。このまま寝ててもいいし、出かけてもいい。ただし逃げようとしてもすぐ分かるから逃げないように」 そう言うと、彼は僕の服や荷物の場所を言ってスマホを渡してくれる。 「ここにオレの連絡先を登録しておいたから、何かあったらすぐに連絡するように」 渡されたスマホはメッセージアプリが開いてある。 「櫂人(かいと)さん?」 そこに書いてある名前は『櫂人』。それをまじまじと見る。 「・・・もしかして、名前すら覚えてなかった?」 少しがっかりしたようなその声に、僕ははっとなって彼・・・櫂人さんを見る。でも櫂人さんは声とは裏腹にうれしそうに僕を見ている。 「じゃあ宿題忘れないように。ちゃんとオレを思い出すこと」 櫂人さんは僕の頭に手を置いて優しく撫でると、カバンを持って仕事に行った。僕はそれをベッドの中から見送る。
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