初恋

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本来なら起き上がって玄関まで行きたいところだけど、本当に身体が動かない。それを申し訳ないと思いつつ、僕は布団に潜った。 櫂人さんの香り・・・。 まだ濃ゆく残る櫂人さんの香りをいっぱい胸に吸い込み、僕は『宿題』を考える。 コンビニが最初じゃなかったら、その前に会ってるってことだよね? 大学に入ってすぐにあそこでバイトを始めたから、その前って言うと実家にまだ居た頃になる。 でもあんなハイスペックなアルファに出会ってたら、絶対に忘れない筈なのに・・・。 そう思いながら疲れた身体と櫂人さんの香りで、僕はいつの間にか眠ってしまった。 ふわふわとした意識の底で、小さな僕が立っている。 あれはいつもは着ない、よそ行きの服を着た時だった。よそ行きの服と言っても、それまで見た事がなく、この服どうしたんだろう?と思ったのを覚えている。母もいつものラフな格好ではなくスーツ姿で、その初めて見る姿にちょっと、母の存在が遠く感じて寂しかったのを覚えている。 母と言っても男オメガだから、母は男の人だ。でもやっぱりオメガだから凄く綺麗で華奢で、とても若く見える。あの時は確かまだ誕生日前で19才だった筈だけど、とてもそんな風には見えず、高校生か、下手したら中学生に見えたかもしれない。そんな母が5才の僕を抱っこしてもきっと親子には見えなかっただろう。 そんな母に連れてこられたのは、全然知らないマンションの一室だった。そしてそこにいたのが義父(ちち)だった。 あの日は、初めて義父を紹介された日だ。 初めて見る義父は、僕が初めて会ったアルファだった。それまでオメガの施設にいたせいか、僕はアルファに会ったことはなく、アルファと言えば『悪い人』のイメージがあったんだけど、その人は穏やかで優しい雰囲気の人だった。ただ背が高くてちょっと怖かったけど、それに直ぐに気づいてくれて膝を折って目線を合わせてくれた。 『私が律希くんのお父さんになってもいいかな?』 その言葉に母を見ると、母は心配そうに僕を見ていた。子供の目から見ても、母がこの人を好きなのが分かった。 『しーちゃん(母)しあわせになる?』 本当は『幸せにしてくれる?』て言いたかったんだけど、5才児の僕はそう言っていた。でもそんな言葉をちゃんと拾ってくれたその人は優しく笑って言ったんだ。 『ああ、必ず幸せにするよ。律希くんもね。私は(しのぶ)も律希くんも二人とも幸せにするよ。だから私たちと家族になってくれるかな?』 こんな子供相手なのに、ちゃんと僕の目を見て真剣に言ってくれた。だから僕も頷いたんだ。この人なら母を幸せにしてくれるって思ったから・・・。でも待って、いま『私たち』って言ってたよね? 僕は夢の中でもう一度思い出す。 あの時いたのは義父だけだっただろうか・・・?
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