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初めて訪れたマンションの一室。出迎えてくれたのは確かに義父だ。だけど中に上がって、リビングに行った時、誰かがソファに座ってた。その人は僕と母が来ると立ち上がって、義父の隣に行ったんだ。そして並んだ二人を母が紹介してくれた。
そうだ。
あの時義父の他にもう一人居た。
『りっちゃん』
母の声がする。
『それからこの人は息子さんの櫂人くんだよ』
義父の隣で、義父よりも背の高いその人はわざわざ床に膝をついて僕と目線を合わせてくれた。
『櫂人だよ。よろしく、律希くん』
・・・思い出した。
櫂人さんは義父の連れ子・・・僕の義兄だ。
高校の制服を着た櫂人さんは母よりも年下のはずだけど、背も高くて大人びていてとても落ち着いていた。そんな人に目線を合わせられて、僕はドキドキが止まらなかった。どうしていいか分からず、思わず母の後ろに隠れてしまった。
あの時の夢は、櫂人さんと会った時の僕だ。
初めて会った時から櫂人さんを前にすると、僕はドキドキして緊張して何も喋れなくなる。だけど傍にいたい。だから僕は、いつも母の足元に張り付いていた。
僕はずっと櫂人さんを見ていた。同じ空間にいられることがうれしかった。だけど、櫂人さんはすぐにいなくなってしまった。
高校三年生の櫂人さんは大学へ進学せずにアメリカに留学してしまったのだ。
一緒に暮らしたのは3ヶ月くらいだった。
いきなり出来た大きなお義兄さんは、僕が彼に慣れる前にいなくなってしまった。それが悲しくて、僕はしばらく落ち込んでいた。だけどその後すぐに母が妊娠して、それどころではなくたった。
そして僕も、いつの間にか櫂人さんのことを忘れてしまっていた。
あんなに悲しかったのに、何で忘れてしまったんだろう?
だけど、その後櫂人さんは家には帰ってこず、家では話題にも昇らなかった。
まるで最初からいなかったみたいに。
お盆やお正月はおろか、弟が生まれても帰ってこなかったのはなぜだろう?
だけど、僕にはその理由が分かる気がした。
僕が見ていた櫂人さんはいつも、母を見ていた。
今なら分かる。櫂人さんの視線の意味。
いきなり出来た母親は若くて綺麗なオメガ。その年はたった2才しか違わない。
恋に落ちるなという方が無理な話だ。
櫂人さんは母が好きだったんだ。だけど、母は父親のパートナー。決して好きになってはいけない人。だからアメリカに行ってしまったんだ。
それから帰ってこなかったということは、ずっと母が好きだってことだよね。
僕は胸がぎゅっと痛くなった。
僕は母にそっくりだ。
小さい時から母親似だったけど、それが年を重ねるにつれてどんどん似てきて、今では瓜二つと言ってもいいくらい似ている。僕たちが親子だって知らなかったら、双子だと思うかもしれない。
そんな僕を番にして結婚した櫂人さん。
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