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日に日に弱っていく奥さん。
見つからない薬。
先生は怖いのだ。このまま薬が見つからず、奥さんが力尽きてしまうのが・・・。
奥さんを、愛してるんだね。
だけどいくら愛しているからと言って、想像を超える恐怖と不安は、時に一人では抱えきれないことがある。それがあの夜だった。
ずっと抱えてきた良くない思いが増幅し、一気に溢れ出す。そしてその恐怖から逃れるように先生は僕に触れ、そして押し倒した。
逃げることも出来た。
相手は酔っぱらいだ。大した力ではない。でも僕はそのまま先生にされるがままになった。
なぜそうしたのか。
僕にもよく分からない。
でも先生が僕を求めるから、僕はそのまま身体を差し出した。
先生から香る香りが不安に満ちていて、それに同情したのかもしれない。
僕は抵抗もせず先生の前に身を投げ出し、先生は恐怖と不安を忘れるためか、激しく僕を抱いた。そして気を失うかのように寝てしまった先生をそっと抱いて、僕も目を閉じた。
人の体温と鼓動は、心を落ち着かせる。
目が覚めるまでこうしていてあげるから、今は安心して眠ってね。
寝室から拝借した毛布を被り、僕達は狭いソファの上でくっついて眠った。
次の朝、ちゃんと先生より先に起きた僕は先生の目が覚めたのを確認してから、普通に服を着て家に帰った。
目が覚めた時の先生は驚きのあまり何も言えず、固まっていた。それを横目に、何事も無かったかのように身支度して出てきてしまったけど、あの時先生はその夜を覚えていたのか・・・。
それからなんのリアクションもないまま一週間が過ぎ、再び週末。先生の声掛けで飲み会が行われた。そこに先週のお礼だと再び呼ばれた僕はまた、酔った先生を家に送ることになった。そして今度はベッドに押し倒された。
奥さんとのベッドに僕が来ていいのかな?
そんなことを思いながらも先週と同じように激しく抱かれ、眠った先生を抱きしめて僕も眠った。
そして次の週末は飲み会はなく、直接誘われて家に行き、同じ夜を過ごした。
そのうち週末だけではなくなり、平日も先生の家に行くようになり、大学構内でも身体を重ねるようになった。
知らない人が見たら、准教授と学生の不倫。
先生の家の事情を知っている人なら、奥さんが大変な時になんてふしだらなんだ、と目くじらを立てるかもしれない。だけど、僕は知っている。先生が僕を求める時は奥さんの容体が思わしくない時だ。
先生は怖くて辛くて寂しくて、僕の体温を求めてくる。それが一時とはいえ、安らぎを与えてくれると知ったから。
今日も突然呼ばれて行ったら、いきなり机に押し倒された。そして事後のあの感じ・・・。
奥さんに何かあったのかな・・・?
僕はバイト先に向かいながら、そんなことを考えていた。
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