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そう思えば辛くない。
自分が生きていることも、アルファに身体を求められることも。
それがオメガの僕の、存在理由なのだから。
そう思って過ごしてきた。
僕は聞き分けのいい子で真面目に生活していたから、両親は何も知らない。そこら辺の普通の高校生だと思っていたと思う。だから大学進学を機に家を出たいと言った時も別段疑うことも無く、あっさり許してくれた。家からでも十分に通える距離の大学だというのに・・・。
親にいつまでも依存するより自立心があっていい。
むしろそう思っているようだ。
でも本当は、いつまでも壁を越えられない家族との団欒ごっこと、親に隠れてアルファと身体を重ねていることの罪悪感から解放されたかったのだ。
これでもう、誰の目も気にすることなく生きていける。
僕は一人暮らしの部屋で過ごして、やっとちゃんと息が吸えた気がした。
だけど入学した大学の先生とすぐにこういう関係になって、図らずも一人の人とだけ付き合うことになった。
別に恋人同士じゃないけど。
その辺の感情は伴わないまでも、僕は先生と過ごす時間を優先した。それがいまの僕の役目のような気がしたから。
先生が僕で癒されるのなら、それでいい。
そう思いながら、あと10分でバイトが終わるといったそのとき、来客を告げるチャイムが鳴った。
僕のバイト先のコンビニは、お客さんが自動ドアをくぐるとチャイムが鳴る。そのいつもの音に入口を見ると、スーツの男性が入ってくるところだった。
いつものお客さんだ。
いつもこの時間に来るその人は、おそらく仕事帰りなのだろう。ドリンクコーナーからブラックのコーヒーをとってレジに来る。それをスマホで支払いをして帰っていくのだ。
ひと月くらい前から来るようになったその人は、僕のシフトが入っている時は必ずこの時間に来てコーヒーを一本買って行く。
背が高くて容姿はかなり整っている。胸のバッジを見ても間違いなくアルファだ。
向日葵のバッジ。
弁護士。
彼は20代前半に見えるけど、その落ち着きからおそらく20代後半から30代前半だと思う。アルファは若く見えるから。
弁護士だしね。
入ってきた瞬間からアルファと分かるけど、レジで近くに来ると香りも漂ってくる。そのフェロモンは微かに香る程度で、あまり僕のところまでは届いてこない。だけど、アルファであることは確かだ。
きっと彼も、僕がオメガである事は分かってるんだろうな。
そのうち僕に近づいてくるだろうか・・・。いや、あんなハイスペックなアルファは僕のところには来ない。わざわざ行かなくても、きっと周りのオメガが放って置かないだろうから。
今までだってそうだった。
僕のところに来るアルファは言ってはなんだけど、『そこそこ』のアルファだ。
見た目も力もハイレベルのアルファは僕のところには来ない。
先生もそれなりの力のアルファだ。
もし力の強いアルファだったら、あんなにメンタルをやられたりはしない。
アルファはアルファと言うだけで身体もメンタルも強いものだけど、それは力の強さに比例する。
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