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それは身体にかなりの負担を強いるらしく、投与中はとても辛いらしい。けれどもそれが効くかもしれないという希望の元に耐え、ようやく投薬が終わるとそれが効かなかったことを知らされる。その期待からの落胆は、時に精神を酷く痛める。
気力が萎えると、身体も弱る。
そしてそれは番である先生にも伝染ってくる。
僕が先生に会った時にはすでに4分の3くらいの薬を試したところで、まだ合うものが見つかっていなかった。それからさらに二ヶ月・・・。きっともう、試せる薬は少ないはずだ。
でもまだゼロではない。
「大丈夫です。まだ終わってません。そうやって悲しむのは、全てを試した後にしましょう。先生がそんなだと奥さんはもっと辛くなっちゃいます。明日も会いに行くんでしょう?今夜はずっといますから、その間によく休んで、気持ちを切り替えてください」
僕はそう言うと、背中をぽんぽん、と叩いてあげる。まるで小さな子を寝かしつけるように。
先生の呼吸に合わせるようにゆっくりと、僕は先生が眠るまで続けた。
先生の呼吸が寝息に変わってもしばらく続け、僕もようやく目を閉じた。
先生に明日からしばらく来れないって言えなかった。でも言わないと・・・。発情期中はやっぱり一人で過ごしたいから・・・。
この家には至るところに写真が飾ってある。
玄関をはじめ、廊下、リビング、トイレ、そして寝室にも・・・。
そのどれもが二人の思い出の写真だ。そしてその写真で一番古いと思われるものは、幼稚園の制服を着ている。
二人は幼なじみで、初恋同士。
実らないと言われている初恋を見事実らせ、結婚した夫婦なのだ。
先生は僕を抱きながら、心の中は奥さんの事でいっぱいだ。それは番じゃない僕にもよく分かるくらい、思いが大きすぎて溢れ出ている。
そもそも僕を抱くのは、愛する奥さんを失うかもしれない恐怖を忘れるため。結局は奥さんを愛しているから僕を抱いているんだ。
そんなに思われてうらやましいです。
僕はそこここにある写真の中の奥さんに話しかける。
先生は本当にあなたのことしか愛していないから、これは浮気じゃないですよ。だから先生を怒らないであげてくださいね。
僕も、こんなに奥さんを愛している人を好きになんてならないので、どうか安心してください。
そう思いながら僕も眠りについた。
そんなことを思いながら眠ったからだろうか。僕はその夜夢を見た。
夢というか、記憶?
僕の胸がドキドキ鳴っている。
初めてその人に会った時から壊れたように胸が高鳴り、その人と会う度に身体がおかしくなる。
胸がドキドキして身体が熱くなる。そして何も言えない。
・・・これは本当に僕?
覚えがない。
けれど確かにそんなことがあったような・・・。
もしそれが本当だったなら、きっとそれが僕の初恋だっただろう。
でも覚えていないし、いま僕の周りにそれらしき人はいない。
初恋だからね。
やっぱり実らなかったみたいだ。
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