See Redー怒り

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 うわあああああうわあああああああ  始まりはおそらく取るに足らないささいな事だったはずだ。私の怒りの感情はしかしそこからどんどんと肥大し増幅し果てしなく広がっていきもう誰にも止められない。固く閉ざされた私の目にそれでも見えているのは紅蓮の焔がごとくすべてを覆い尽くしていく怖いほどの赤。  See Red、赤を見る。目と鼻が大きく不思議な瞳の色を持つ彼らは怒りをそう表現した。あれはいつだったか、四角く切り取られた壁にそんな彼らのやり取りが映し出されていたことを思い出す。  そんなことをツラツラ考えているうち怒りの感情にズレが生じ私はもう叫ばなくていいのかもしれない、そもそも私はなぜこんなにも怒っているのだ? 静かに自問自答してみようかと思った瞬間、ビカビカと七色に点滅しながらガチャガチャと不穏で騒がしい音を振り撒く物体が目の前にやってきたのだからもうダメになる。  うわあああああうわあああああああ  私は深く息つぎすると喉も千切れよとばかりにさらに大きな叫び声を断続的に発した。全身のエネルギーを振り絞り体じゅうから発汗し濡れた肌が不快だ。身体的にも精神的にも、もはや持ちこたえる事はできないだろう。  たかぶって痛ぶられ翻弄され怒涛の渦に巻き込まれ胸は張り裂けそうで全身がわなわなと震え何も見えず聞こえず私はもう私でなく一個の物体となり存在を続けながら機械的に叫び声をあげるだけのモノと化す。  あああああああああ  すると突然、柔らかくて温かい物に全身が包まれ私は宙に浮遊した。口元に、甘い香りを漂わせる突起物をあてがわれ反射的に本能的に強く吸いつく。刹那、口中に流れ込むうす甘い液体。えも言われぬ至高の美味に酔いしれると同時に私の内面は、大きな安心感で満たされ耳にはまた音が感じられるようになり閉じた目には満開の桜のような薄桃色のイメージが広がっていく。うっすら目を開けてみるとそこには、まごう事なき母の乳房。
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