埋もれた屋根

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 司は東京に住んでいる小学生だ。盆休みを利用して父の実家に来ていた。実家のある集落の友達とも仲良くやっている。  昼下がり、司は夏休みの宿題をしていた。何日も晴れが続いている。今日も暑い。アブラゼミの鳴き声が大音量で響いている。  司は扇風機に当たりながら宿題をしていた。先日の登校日で提出する宿題は間に合った。あとは2学期になって提出する宿題だ。 「司ー、かくれんぼしようぜ!」  突然、誰かが玄関から声をかけた。この集落に住む子供たちだ。 「うん」  司は2階から降りてきた。彼らは玄関で司を待っていた。彼らはみんな半そでに短パン姿だ。 「いってきまーす!」  司は母に声をかけて、かくれんぼに行くことにした。昨日の昼にテレビゲームで遊んでいた時にやろうと決めていた。  4人はこの近くの電柱で止まった。電柱はそんなに交通量の多くない道路沿いにある。ここでじゃんけんをして鬼を決めることにした。 「鬼はここで待つことにしよう!」 「うん!」 「最初はグー、じゃんけんポン!」  4人はじゃんけんを始めた。最初に抜けたのは司で、それと共にどこかに行った。できるだけ遠い所に行って最後まで見つからないようにしよう。 「最初はグー、じゃんけんポン!」  次に向けたのは康太だ。康太は隠れる場所に向かって走っていった。  最後に残ったのは周平と隆太だ。 「最初はグー、じゃんけんポン!」  周平が勝った。最後まで負け続けたのは隆太だった。 「じゃあ、隆太くんが鬼ね!」 「うん」  隆太は腕で目を隠した。すると、周平は隠れる場所に向かって走り出した。 「もういいかい?」 「まぁだだよ」  司は逃げている途中、ある橋を見つけた。その橋はコンクリート製で、沈下橋だ。川が増水したら水の中に沈む橋だ。 「何だろう、この橋は」  司は古びた橋を渡り始めた。その橋はは何年も整備がされていないが、しっかりとしていた。  司は橋の下から川をチラッと見た。川は流れが速く、透き通っている。  その先には、どこか開けた所がある。どうしてここだけ開けているんだろうか?ここにも集落があったんだろうか? 司は首をかしげた。ここのことは誰からも聞いたことがない。この辺りに隠れようか? 司は考えた。  司は辺りを見渡した。と、開けた所の中に、埋もれた屋根を見つけた。その屋根は赤い。一体何年前からあるんだろう。 「ここはどこだろう」  司は屋根の中に隠れることにした。絶対に最後まで残ってやる。 「もういいかい」 「もういいよ!」  隆太は3人を探し始めた。絶対にみんな見つけてやる!  司は辺りを見渡した。暗くて何も見えない。 「暗いな」  辺りは静かだ。今日は暑いのに、なぜかひんやりとしている。 「助けて・・・、助けて・・・」  突然、女の声が聞こえた。苦しそうな声だ。 「ど、どこですか?」  司は辺りを見渡した。だが、どこにもいない。 「ここ・・・」  司は後ろを振り向いた。すると、がれきに埋もれた女がいる。その人は額から血を流している。 「だ、大丈夫ですか?」  司は驚いた。どうしてここに女がいるんだろう。何があったんだろう。 「ここから出して・・・」  司は彼女に近づいた。その女は苦しそうだ。 「安心してください、今すぐ出しますね」  司は女の手をつかみ、助けようとした。だがその時、大きな音が聞こえてきた。 「な、何だ?」  司は驚いた。夕立だろうか? でもこれは夕立の音ではない。一体何だろう。司は首をかしげた。  突然、屋根に土石流が迫ってきた。晴れているのに、どうして土石流なんだ。司は信じられなかった。 「ギャー!」  2人はあっという間に飲み込まれた。それからのことを、司は覚えていない。 「司、しっかりしろ!」  司は隆太の声で我に帰った。そこはあの屋根の外だ。司は辺りを見渡した。だが、あの女はいない。いつの間に外に出ていたんだろう。 「ん? みんな、どうしたの?」  司は何があったのかわからなくて、茫然としていた。目の前には隆太や正平、康太がいる。 「どうしたって、ここで寝てたんだよ! わめいてたんだよ!」 「そ、そんな・・・」  司は驚いた。何があったのかわからなかった。寝ていた? 寝ていたんじゃない。人を助けようとしたら、土石流が迫ってきたんだ。 「どうしたの?」 「助けてって声が聞こえて、何かが流れてきて、目を閉じたんだ。で、誰かがゆすってるのに気が付いて目が覚めたんだ」 「そんな・・・」  その時、1人の老婆がやって来た。司の祖母だ。祖母は深刻な表情だ。 「おばあちゃん!」  司は驚いた。まさか、祖母が来るとは。どうして来たんだろう。司は首をかしげた。 「ここにいたのか?」 「うん」 「ここには昔、集落があったんだ。だが、台風で土石流が起こって、あの屋根を残して家屋が埋まったんだ」  祖母は寂しそうな表情だ。その土石流のことを知っていた。司の実家のある集落は大丈夫だったが、ここは特に被害がひどかったという。 「そこの人、どうなったの?」 「みんな死んだんだ」  祖母は下を向いた。小学校の頃の友達もこの中に埋まっているという。その友達はどこにいるだろう。祖母は心配だ。 「そんな・・・。それじゃあ、あの手は?」  司は呆然としていた。まさか、あの女は幽霊だろうか? まさか、幽霊を助けようとしたというのか? 「見たのか?」  祖母は驚いた。まさか、幽霊を見たというのか? 本当なら、呪われていないだろうか? 「うん」  司は戸惑っていた。これを言ってよかったんだろうか? 「おそらく、死んだ人の幽霊だろう」 「そんな・・・」  司は固まった。やはり幽霊だったんだ。自分は幽霊を助けようとしていた。この後、どうなってしまうんだろうか? 呪い殺されてしまうんだろうか? 「さぁ、帰ろう」 「うん」  周平の呼びかけで、5人はそれぞれの家に帰ることにした。だが、司の足取りは重い。この後、どうなってしまうんだろうか?   沈下橋の辺りまで差し掛かると、両親がいた。両親も深刻な表情をしていた。 「司、あんなとこ行ってたの?」  母は父からその集落のことを知っていた。行ってしまうとは。あそこに行ってはダメ。呪われる。 「うん」  司は下を向いていた。司は呪われてしまったんだろうか? 「あそこは危ないわよ。幽霊が出るって言われてるのよ」 「ごめんなさい」  司は謝った。だが、取り返しのつかないことになったかもしれない。呪われたなら、どんなことが起こるんだろう。  その答えはその夜、寝ていた時にわかった。  司はその夜、とんでもない夢を見た。それは、どこかの集落だ。集落では大雨が降っている。外には誰もいない。家に避難しているんだろうか? その集落は、今日の昼下がりに隠れていた集落の跡に地形が似ている。まさか、ここは隠れていた集落の後だろうか? 「ここは、どこ?」  その時、大きな音を立てて茶色い何かが迫ってきた。土石流だ。司は驚いた。まさか、あの時の土石流の夢かな? 「うわー!」  司は呆然としていた。夢だとわかっている。夢から覚めてくれ! 早く目覚めろ! 「助けて・・・、早く・・・、助けて・・・」  突然、女の声が聞こえた。司は凍り付いた。かくれんぼの時に見た幽霊の声だ。司はどうしていいのかわからなかった。 「ギャー!」  司は土石流に飲み込まれた。お昼にかくれんぼしてきた時に見た土石流のようだ。だとすると、これはあの時怒った土石流の夢だろうか? 「司、どうしたの? 汗かいてるわよ」  司は母の声で目が覚めた。司は滝のように汗を流している。あまりにも夢が恐ろしかったようだ。 「いや、何でもないよ」  司は夢のことを言えなかった。呪われたなんて母に言えない。言ったら母も凍りつくかもしれない。  母は深刻な表情だ。ひょっとしたら、司は呪われたんじゃないか?  いつものように朝を迎えた。だが、司の表情は冴えない。昨夜の夢のショックが大きい。そのことを誰にも話せない。 「おはよう」  司は暗い表情でかくれんぼのメンバーに声をかけた。だが、かくれんぼのメンバーも暗い表情だ。どうしたんだろう。 「み、みんなどうしたの?」  司は驚いた。まさか、彼らも同じ夢を見たんだろうか? 「昨日、悪い夢を見たんだ」  周平は下を向いていた。あまりにも衝撃的だったようだ。 「どんな?」 「土石流に遭う夢」  周平は手が震えていた。それを話すたびに、びくびくしてしまう。それほど怖い夢だった。もうこんな夢を見たくない。 「そ、そんな」  司は驚いた。友達も同じ夢を見たというのだ。まさか、この集落の跡に行って呪われるって、こういうことかな?
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