ありふれた、あたし達の話

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「また何処へ遊びに行ってたんですか?!」 「いいじゃないの、別に!ちゃんと帰ってきたでしょ?!」  苛立ちと共にわざと音を立てて部屋のドアを閉める。相手はドアの向こうで未だに声を荒げて何かを言っていたが、無視した。真っ直ぐに、部屋の殆どの面積を占めるクイーンサイズのベッドへ行き、ダイブする。ボフン、とスプリングが少しだけ跳ねてから、羽毛布団があたしを包み込む。  息が詰まる。何者もあたしを歓迎してくれないこの家の中で、この場所だけがあたしの唯一の癒しだった。  ふぅ、と息を吐く。  ごろりと寝返りを打てば、カーテンを開けっぱなしにしていた窓から細い三日月が覗いていた。  例えば、月が化けて、人間の姿をしてあたしの傍に居てくれたらいいのに。ーーーなんて、メルヘンなことを想う。 「……ばかみたい」  ゆっくりと身を起こし、ベッドから降りてカーテンを閉めに窓際まで行く。  あたしが此処で息をしていることを、この月しか知らないのではないか?そんな孤独感。  シャッと音を立ててカーテンを閉める。 (ばかみたい……)  いつものように、『孤独』を『強がり』で掻き消した。  将来なんて決まっているくせに、どんな意味があるのだろうかと思いながら通う学校はつまらない。  やれ、ブランドのバッグがどうだとか、やれ、誰それと誰それが付き合っているだとか。休み時間にはそんな、為にもならない話ばかり。ばかみたい。退屈だ。購買で買ったパンを食べながら、クラスメイト達を見回した。数人でグループを作って、談笑しながらご飯を食べるこの内の何人が、愛想笑いで誤魔化して、この世界の味気無さに気が付いているのだろうか。  あたしは一人でさっさと、なんたらと言う店の高級らしい惣菜パンを食べてしまう。ーーー確かに、コンビニの物よりは美味しいかもしれないけど、近所のパン屋との違いなんてわからない。  ありふれた日常。  頬杖を付いて、窓を眺めた。  そこには、なんとかと言うプログラムで再現された、偽物の空がまるで自身が本物であると疑わないように、自信満々に何処までも広がっている。
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