ありふれた、あたし達の話

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 人類は遂に、地上で暮らすことが出来なくなった。  何百年とは言わないまでも、百何十何年かは昔のことだ。もうすぐ二百年と言った方がわかりやすいのかもしれない。  ずっと危ぶまれていた環境問題が改善されず、オゾン層が破壊され、北極の氷は完全に溶けてなくなり、海の水位も上がった。更には、度重なる自然災害。異常気象。人類は、地球で生きる術を無くした。  当初は月へ行く計画もあったようだが、様々な問題が挙がり、地下に潜って暮らすことで可決した。  あたしが暮らしている世界は、地球の地下と言うことになる。  作られた酸素が循環し、描かれた空が色を変えて時間を報せる。給食の献立のように決まった天気。台風は来ない。人工的に作られた海は広いが、終わりを知らせる壁に阻まれる。住宅街にも、突然壁が現れる。  囲われた世界。管理された世界。  それさえも息苦しいのに、更に、何を思ったのか、この世界では、AIロボットはまだしも、クローンや体外で作られたニンゲンが生活している。  今では、ペットが死ぬ前にクローンでコピーを作るし、アイシアッテお腹の中で赤ちゃんを育てるような夫婦は滅多にいない。性別だって選ぶし、都合の悪いことがあれば、その受精卵は捨ててしまうらしい。  ほら、反吐出る。  でも、何よりも反吐が出そうになるのは、誰もそれを疑問にすら思わないというところ。  かつて、あたし達の命は『唯一無二』だったらしい。   (………ばかみたい……)    そのかつてであれば、自分の生なんて無かっただろうに。しかしあたしは、その『かつて』に今日も焦がれる。  だって、あたしはーーー…。
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