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epilogue X~X+3年(丹内)
俺はそのまま、このマンションで暮らした。
事故からしばらく経って、鷹取の両親が来た。
「卒業までは、きっと一太はここにいたいと思います」――そう言って、卒業するまでの間、家賃の半額を払ってくれた。
卒業後、少しずつ、鷹取の荷物を実家へ送った。
鷹取の育てていたたくさんの植物だけが、ここに残った。
そして、俺は、そのままこの土地で就職した。
まだ、今もここで、暮らしている。
ドアを開けると。
「ただいま」
『おかえり』
鷹取が、迎えてくれる。
わかっている。
これは、俺が作り出した幻覚だ。
本当は、鷹取はいない。
でも。
ベランダに出ると、晩秋のひやりと冷たい風が髪を揺らす。
あの頃、春になると鷹取と一緒に缶ビールを持って、小学校の校庭に咲く夜桜を眺めて飲んだっけ。
「なあ、鷹取が本当に俺を迎えに来るまで、ここで一緒に暮らさないか」
まるでプロポーズみたいだな――
隣の鷹取が、穏やかに笑う。
俺の頬に流れた、一筋の涙を、鷹取の指が拭う。
目を閉じると、確かに、鷹取に抱きしめられるのを、感じた。
(おしまい)
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