イカリン

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 それからの私は、波を起こす薬品の研究に取り組んだ。  私は確信していた。薬品の力によって人体に波を起こせるようになれば、か弱い女性でも男性に対抗しうる、いや、きっと凌駕出来る。  こうして完成したのが『イカリン』だった。  臨床実験として自分に投与してみたけれど、これは思った以上に強力だった。いつものように手を挙げる夫の手を軽く払っただけで、夫は勢いよく壁に激突したのだ。体が波打つ感覚に慣れるのには少しだけ時間が掛ったけど、慣れてしまえば日常生活には支障もなかった。  薬の効き目は十二時間だけれど、帰宅してすぐに服用すれば、一日一錠で済むし、それだけ持続してくれれば十分だ。  しかし、内容が内容だけに、所内で公表したら、所員の殆どが男性であるこの職場では発表を反対されると判断した私は、先に『この世から暴力を根絶する会』の会長にこの事を打診した。  因みにここの会長自身、過去に夫からの暴力を経験している。  この薬が、女性だけでなく、家庭内暴力に苦しんでいる子供達にも有効と知ると、この団体の後ろ盾もあり、スムーズにこの薬は承認されることになった。  子供にも有効なのは分かっていた。いい年した大人より、子供の方が体も柔軟なのだから。
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