シズマリン

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シズマリン

「ものすごい売れ行きだそうですね」  その薬剤の入った缶を手に、助手の後川内(うしろかわち)は、私、綾小路弥生(あやのこうじやよい)の目の前で振って見せた。青いスプレー缶が、私の目の前で踊る。 「でも……」 「ん?なに」  助手である後川内は、恐る恐る私に進言した。 「最初からこれを販売すればよかったのでは」  そう言う後川内に、私はあきれ顔で小さく首を振った。 「何言ってるの。そんなことをしたら……」 ーシズマリンー  実は、イカリンよりも先にコレは完成していた。そしてこれも我が家で臨床実験し、結果も良好だった。  これは、スプレーされた空間でその気体を吸い込むと、たちまち怒りの感情を脳内から消し去り、そこにいる人間の心を優しく穏やかにするという代物だった。  実際、経口されたものよりも、肺に取り込まれせたほうがより即効性があり、波の存在に気付くまで、私はこの製品の開発に心血を注いでいた。  波が人体にも有用だと気付いたのは、この製品の開発中の事だった。
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