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利 権
イカリンは販売開始から一月も経たないうちに飛ぶように売れだした。その売れ行きに平行するように、今度は世の男性たちから嘆きとも取れる声が日に日に増えていった。今度は女性たちからの暴力に、男性側が耐えられなくなってきたのだ。
今まで好き勝手に、あるいは気まぐれに女性や子供達に手を挙げていたのだから、それは自業自得としか言いようがない。しかしそこで、はいおしまいと片付けてしまってはいけないのだ。
「いい?後川内」
私は後川内のすぐ目の前まで顔を寄せ、そこでにっこりと微笑んでみせた。
「あなたはこう言いたいのよね。最初からシズマリンを販売していれば、男性たちの怒りを鎮め、DVもなくなったんじゃないかって」
「は、はい。おっしゃる通りです」
私はその笑顔を崩さないまま、目を細めて後川内に教えてあげた。
「でもね、薬を販売して、それに効果があって、世の中の人が薬を必要としなくなったとしたら、どうなる?」
「それは、私達の理想では」
私は一つ大きなため息をついてしまった。何もわかってない。
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