ぼくときみ

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ぼくときみ

 幸せな夢を見た。  よく晴れた気持ちのいい草原で、僕は一人少し離れた場所にある丘を眺めていた。  丘の上では人影が僕に向かって大きく手を振っている。あの人影はキミ。ここからでは顔は見えないけれど、ぴょんぴょんと飛び跳ねている様子から想像すると、いつものように右の頬にエクボを作りながら満面の笑みを浮かべているに違いない。  僕はキミのそんな顔を想像しながら大きく手を振り返す。  幸せな幸せな時間。  しかし、そんなものはこの世の中には存在しない。 「おはよ。ハリア」  目を覚ました僕は、ベッドの横に置いてある木の丸椅子にアリラが座っていることに気がついた。 「おはよう。アリラ。今日は早いんだね。体調は?」  体を起こしながら、僕はアリラの方に顔を向ける。 「今日はかなり調子がいいみたい」 「そう、それはよかった」 「また怖い夢でも見たの?ハリア、スゴイ汗かいてるよ」  ベッドから降りた僕を見上ながら、アリラが心配そうな顔でそう尋ねてくる。 「ううん。違うよ。夢なんて見てないよ。ちょっと暑かったから」  そう言いながら僕は窓辺へと移動すると、そこに置いてあったタオルで顔を拭きながら窓の外を眺めた。  もう陽が昇っていてもおかしくな時間にもかかわらず、外は薄暗い。  僕たちが住むこの世界は、いつも暗く、じっとりとしている。  いつからこうなったのかは知らないけれど、僕が知る限りずっと世界はこんな調子だ。  だから、今日見た夢のようなキラキラと眩しい世界など僕は知らないはずなのに、それでも僕は夢に見る。  初めてこの夢を見た日、どこかで見たことのある風景なのか調べてみようと図書館にある投影装置で過去のデータを調べた。しかし、そんなデータはひとつも見つからず、やっぱり一度も見たことが無い世界だったようだ。どうしてそんなものを夢に見るのだろう。  ひょっとすると僕の繋がらない記憶と何か関りがあるのだろうか。 「ハリア、どうしたの?難しい顔して」  いつの間にか僕の横に立ち顔を覗きこんだアリラは心配そうな顔をしている。 「なんにもないよ。今日も外は暗いなあ。って思ってただけ」  僕の言葉を聞いたアリラも窓の外へと視線を移した。 「そう?暗い?今日は明るいと思うけどなあ。あ、サハトだ!」  窓の外を歩くサハトの姿を見つけたらしいアリラは、僕を置いて大急ぎで部屋から飛び出して行ってしまった。
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