怒り地蔵

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河島崇が違和感に気付いたのは、6月半ば、昼下がりの路地でのこと。 この日の大学の講義は昼までで終わるため、最近付き合い始めた彼女と共に繁華街へ昼飯がてら遊びに向かう途中だった。 「なぁ、何か今日、変に静かじゃないか?」 隣を歩く佐倉井菜々美に話しかける。 「え?そう?平日の昼間なんてこんなもんっしょ?」 髪の毛を指先でくるくると遊ばせながら菜々美が答える。 「いや、俺この道よく通ってるけど、この時間で誰もいないってまず無いんだよ。」 崇が菜々美の言葉を否定する。2人が歩いているのは車どうしがなんとかすれ違えるくらいの、さして広くない裏道。飲食店だの古着屋だのがぱらぱらと居を構えるこの通りにこの時間で人影が無いのは不自然に思えた。 「んー…まぁ、たまたまじゃん?そんな日もあるって」 何をそんなにきにしているのか、と言わんばかりに菜々美が崇の背をポンと叩く。 「そう…か。」 「それよりさー、お昼なに食べる?この前みっけたんだけどさ、この店とかースッゴい美味しそーじゃない?」 なおも変な顔をする崇に、手早くスマホに店の写真を表示させて菜々美が誘う。 「オムライスが有名なんだって。朱美から自慢されてさー、無性に悔しくって。」 「はいはい、分かった分かった。」 コイツ最初から決めてやがったな、と思いつつ、軽く手を上げて降参の意を示す崇だったが。 「…の………ら……お………か。」 「っ!?」 何かが、何かが聞こえた気がして崇は思わず辺りを見渡す。 「あ、何イキナリ。怖いんですけどー?」 菜々美が崇の袖を引く。 「いや、今、何か変な声聞こえた気が…。」 「は?声って…ココ、あたしらしかいないじゃん。…その辺の家のテレビじゃない?ねぇ、早く行こーよぉー」 興味なさげに菜々美が言う。頭の中は友人に自慢されたオムライスで一杯だ。 「あ、あぁ、そうだよな。悪りぃ。」 崇は、頭を掻きつつ前方に向き直って歩き出そうとして…ふと、見慣れないものが目に留まった。 「あんなもの、この道にあったっけ?」 崇が指差す先を菜々美も見やる。 数メートル先の電柱の陰に、古い木の箱のようなものがある。
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