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「ゴミじゃない?」
言いながら、2人は箱に近付く。
近付いてみると、それは箱ではなく小さな祠であると分かる。中には1体の地蔵。大きさは大人の膝丈ほど。
「なんだ、これ。今まで見たこと無いんだけと…。」
「うえぇ~…気持ち悪っ!何この顔…。」
それは、鬼のような形相で怒る地蔵だった。
三角の屋根には『怒り地蔵』と墨字で書いてある。地蔵は、崇たちを睨み付けるように少し上を向いているため、自然と目が合う。
「ねぇ、早く行こっ!これ、何か嫌な感じだし。」
菜々美が再び崇の袖を引く。
「…だな。とりあえず離れようぜ。」
そさくさと地蔵の前を通りすぎる。相変わらず人はおろか、自動車の影さえない静かな通りでこれは不気味すぎる。
「この恨み、晴らさで、おくべきか。」
はっきりと、低くしわがれた声がした。ビクリと2人が肩を震わせ、顔を見合わせる。
「この恨み、晴らさで、おくべきか。」
2回目の声にゴトッと重い音が重なる。それは、2人の後ろから…。
ゆっくり、2人が振り返ると、先ほど通り過ぎた祠から怒り地蔵が転がり出ている。
「なんで、急に、地蔵、た、倒れて…。」
「わかんないよっ!それにさっきの声なに?!」
崇も菜々美もパニック状態で、しかし地蔵から目が離せない。
今度は地蔵からぼそぼそとした声が聞こえてきた。
「佐倉井菜々美…✕✕市◯◯町…△△アパート203号室…19歳…4月16日…」
それは、菜々美の個人情報。
「なんで私の事そんなに詳しいのよ!」
菜々美が金切り声で叫ぶ。だが、その声に地蔵は答えない。
ゴロリ。ゴロリ。
そして、ゆっくり2人に向かって転がりはじめた。
「う、うわぁーー!」
先に動いたのは崇のほうだった。体面もなく叫び、走り出す。
「ひぃっ!ちょっと!崇!置いてかないでよ!」
3歩ほど遅れて菜々美も走り出す。
ゴロンゴロン、ゴトン。ゴロゴロゴロゴロッ!
背後から迫る石の音から必死に逃げる2人だったが、怒り地蔵は徐々に速さを増して追ってくる。
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