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 無益な思考を隅によせながらハイペースで弁当をかきこんでいると、また唐突に愛斗がつぶやいた。  さっきかじったと思ったおにぎりは、愛斗の手の中でまだ三角の形をとどめている。もともと少ない集中力が今日は一段と落ちているようだ。俺もつき合って箸を下ろす。 「瀬戸さんが、なに?」  愛斗の視線の先で、その人はランチバッグを胸に抱えて教室を出ていく。クラスの女子でも特に小柄な人だ。だいたいおろし髪だがたまに昭和の女学生みたいなキチキチのみつあみをしていて、今日はそのキチキチの日である。絶妙にダサい。  しかしなんとなく馬鹿にできないのは、その人がクラスメイトながら雲の上の存在だからだ。彼女は倍率五倍越えの入学試験を一位でパスした人物。次々と襲ってくる課題も軽やかにこなし、テスト前もいつもどおりに穏やかに過ごす――俺たちとは違う種類の人。  日頃は接点もない。だというのに、愛斗は彼女が消えていったドアの向こうをいつまでも眺めている。 「俺気づいたんだよね。瀬戸さん、水曜日の昼休みはいつも外に行くんだよ。絶対他の学科に彼氏いる」 「へー。気にしたことなかった」  俺はてきとうな返事をして、から揚げに食いついた。うちのから揚げはいつもニンニク醤油に漬けこんでいて、焦げたように黒いが、うまい。安定の味に満足していると、愛斗がずいと身を乗り出してきた。 「ヨッシーそんだけ? 驚かないの? 瀬戸さん、優等生だよ? 一目置かれてる人だよ? なのに彼氏だよ? 禁則破りだよ?」 「べつにバレなきゃいいんじゃない?」  とか言ってる間にから揚げを食べ終えてしまった。もうひとつは最後の楽しみに残すと決めて、ゴマ塩のかかったご飯に箸を差しこみ、次に卵焼きに狙いを定める。  愛斗がほーっと長いため息をついた。 「ヨッシー、クールだよね」 「……それ『冷ややか』の方? 『冷静』の方? 『カッコイイ』の方?」 「え、全部」 「いやだいぶ違うし」  入学して半年近くたってその勘違いはマズいぞ愛斗。俺はただのことなかれ主義者だ。  苦笑いしていると、愛斗は心の底から不思議そうな顔をして、 「でも俺が今から告ってくる! って言ったらヨッシー絶対止めるでしょ?」 「いちおう説得はするかな」  答えたら、愛斗はなぜかニカッと笑って、ようやくいつもどおりの大口で、おにぎりの頂点に食らいついた。
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