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2.死神 前編
昔からソレが見えた。
初めて見たのは四歳のころだったと思う。母に連れられていった近所の公園。そこのベンチに座ってぼおっとあたりを見渡すおばあさん。
ソレはその傍らに立っていた。
いや、傍らというのは違う。ソレはおばあさんの目の前でおばあちゃんを見下ろしていた。立ち位置的におばあさんにもソレが見えているはずだったが、おばあさんは気にするそぶりもなく、ソレを含めた公園の風景を眺めていた。
どうやらおばあさんにはソレが見えていないようだった。
シルクハットにタキシード。一昔前の英国紳士のようなソレの姿はあまりおぞましいものとは言えなかったが、見慣れないその風貌は幼い私に漠然とした恐怖をおぼえさせた。
ふとソレがこっちを向いた。目が合ったソレの顔を僕はよく覚えていない。ソレは私が"見えている"と分かると、こちらに向かって腕を振り回して走ってくる。
私は一心不乱に逃げた。ただ走った。
バフッ。
だが必死に逃げるのもむなしく、私は捕まったのだった。
「ちょっと! 勝手にどっか行っちゃだめでしょ!?」
私を捕まえたのが母だと分かったとき、どれだけ安心したことか。
そして、その数日後。公園で見たおばあさんが亡くなったと聞いたとき、ソレがいわゆる「死神」だったんだと分かった。
それから二十年の間。多くの死神を見た。だが、その全てに対して私は見えていないフリをしてきた。それが自分を守る最善の策であったからだ。
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