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「じゃあ……なぜあいつは……」
「私と同じように、キミと話したかったんじゃないかな。さっきも言ったように、我々が見える人間は稀だからね」
死神はそう言うと、シルクハットをかぶり直しながら立ち上がる。
「少ししゃべりすぎたね。ここらへんでおひらきにしようか」
「ちょっと待ってください。あなたが現れたということは私ももうすぐ死ぬんでしょうか」
この場から立ち去ろうとする死神に向かって、私はそう問いかけた。死神は少し首を傾けて微笑んだあとこう答えた。
「我々が召喚されるのはあくまで死ぬ”タイミング”が近い人間だ。だから運よくそれを回避する人間もいる。現にキミは私と話すという選択をしたことでいったんは無事に済んだようだよ」
「いったんということは……これからもタイミングはあるということですか?」
「そうだね」
「じゃあ、私はそれをどう回避したらよいのでしょう」
死神は変わらない微笑みのまま、私に向かって最後にこう残した。
「今を大切に、楽しく生きることだ。いつだって、自分がこうしたいと思ってすることがキミにとって正解であることに変わりはない。人に流されず、群れの羊のままではなく、自分の心のままにね。こんどキミに会うときは、キミが悔いなき人生を送ったあとにしよう」
次にまばたきしたとき、死神はうっすらとした黒い煙を残し消えた。
そしてその煙も風に乗ってどこかへと消えていく。
私はその光景を娘や孫に囲まれた病床の上で静かに思い出していた。
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