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巫女への礼
「申し訳ありませんでした!」
宿に戻るや否や、土下座をされた。
「いや、何でそうなるの」
「だって、私、クニさんの踊りを全然違うものにしてしまったから」
「まぁ、確かに全然違ったわね」
クニグンデの弾むような舞を思い出し、小さな笑いが零れ出た。
「最初は、クニさんと同じように踊るつもりだったんです。あくまでもクニさんの代理で踊るわけですから。だけど……踊っている内に、その……」
「楽しくなっちゃって?」
「う……っ」
「いいのよ、あれで。舞う人が違えば、舞も変わるのは当たり前のことだから」
「でも……」
「それに私の目的は、大社本殿の修復費を集めるための勧進であって、私の舞を広めることじゃないもの。そう考えれば大成功よ。あれは」
実際、今日のクニグンデの舞によって、これまでの芳しくない成果がまるで嘘かのように多くの寄付が集まった。
今だからこそ分かる。私の一人よがりな舞では、絶対に為せなかったことだ。
「明日以降も、あんな感じで踊って頂戴」
「えっ? いいんですかっ?」
「あなただって、その方が楽しいでしょう?」
「はい! すっごく楽しかったです!」
今にも踊り出しそうな勢いのクニグンデを前に、また笑みが零れてしまう。
(困ったものね……)
クニグンデには、自分の才能が抜きん出ているという自覚がまるでない。
ただ、踊りが好きという気持ちは誰にも負けないという自負があるだけだ。
もちろん、好きだという気持ちは大切だ。それが無ければ何も始まらないし、事実その気持ちがあるからこその才能だ。
だけど、それで生きていくのなら、自分の能力を知る必要がある。知らなければ、成長することはできないのだ。
上には上がいる。それが世の常だし、クニグンデの世界でも同じだと思う。
だからこそ、今のままではいけない。このまま自分を知らずにいたら、いつかきっと、自分の限界に呑まれてしまう。
それだけは、絶対に許せない。
あの美しくも大胆な舞は、こんな小さな町で埋もれていいものじゃないのだ。
「……ねぇ、クニグンデ。前に、何かお礼がしたいと言っていたわね」
「はい! 私にできることでしたら何でも」
「私に、あなたの舞を教えてほしい」
クニグンデが固まった。
間を置いて「えぇ!!」と、今にも飛び上がりそうな勢いで驚いた。
「あなたが元の世界への道を見つけるまでの間、私と共に旅をしながら、私にあなたの舞の全てを教えてほしいの。私はそれを全部吸収して、自分のものにしたい」
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